第9話 学校を休みました



 翌日、僕は寝不足のせいで体調を崩し、学校を休むことになってしまった。

 寝不足の原因はもちろん、先輩のアレのせいである。



(どうしよう……。これって最早、病気なんじゃないだろうか……)



 先輩のアレが目に焼き付いてしまったせいで、僕は今も眠れないでいた。

 眠気はあるのだが、目をつぶってもアレが見えるせいで落ち着くことができない。

 いっそ開き直ってゲームでもしようかと思ったが、それはそれで後ろめたい気もする。



(でも、暇なんだよなぁ……)



 こうしていると、小学校の頃に熱を出して休んだ時のことを思い出す。



(あの頃も、熱はあれども有り余る元気のせいで暇を持て余していたよなぁ……)



 元気を持て余しているという意味では今も同じなのだが、その内容には大きな隔たりがある。

 こんな時に大人になったことを意識するとは思いもしなかったが……



「ん?」



 そんな風にモヤモヤと考えていると、スマホから電子音が聞こえてくる。

 どうやら〇インにメッセージが飛んできたようだ。



『生きてるか優季ゆうき



 メッセージを送って来たのは、僕の数少ない友人である永田 利紀ながた としのりである。

 ちなみに、優季とは僕の名前だったりする。藤馬 優季とうま ゆうきが僕のフルネームなのだ。



『生きているよ。凄く暇をしている』



 そう送り返すと、即座に着信が入る。



「おい! 暇ってどういうことだ! ズル休みか!」



「違うよ。寝不足でフラフラしててさ。危ないからって強制的に休まされた」



「なんだよソレ……。小学生か?」



 僕も似たようなことを考えたけど、改めて人に言われると恥ずかしさがこみ上げてくる。



「実際、まだ寝られていないんだよ……。ちょっと昨日のイメージが抜けきらなくて……」



「昨日のって……。そういやお前、昨日先輩とデートだったらしいな。まさか……」



(しまった……)



 根掘り葉掘り聞かれるのが嫌で永田には黙っていたのに、余計なことを口走ってしまった。

 ……いや、でも今の口ぶりだと、永田は既に知っているような感じだったぞ?



「永田、なんでそれを知っているんだ?」



「さっき先輩がお前を尋ねて来たからだよ。まさか昨日のことが原因で……とか言ってたからまさかとは思ったが、やっぱりそういうことだったか!」



 どうやら永田は直接聞いたのではなく、先輩の態度から察したようであった。

 僕は自ら墓穴を掘ってしまったらしい。



「それで? 何があった!? いや、何をしたんだ!?」



「べ、別にやましいことはナニもしてないよ!」



 いや、本当に。

 やったのは至って普通のマッサージだけである。



「そんなワケあるか! どうせ何か変なことでもしたんだろ!」



「だからナニもしてないって!」



「本当か~? その割には先輩の態度、変だったぞ? ちょっと怖いというか……。お前、何か怒らせるようなこととかしなかったか?」



 怖い……? 別に怒らせるようなことはして……っ!?

 いやいや、良く考えれば普通にしてるじゃないか!

 ワザとじゃないとはいえ、僕は先輩のブラを……



「おい、どうした。何か心当たりでもあったのか?」



 あったが、それを言うワケにはいかない。

 言ってしまえば、下手をすれば明日も学校を休む羽目になってしまう。

 ……身の危険を避けるという意味で。



「イヤ、ナニモナイヨ」



「棒読みになってるぞ? 絶対何かあるだろ……。例えばあれだ、スマホの待ち受け画像を〇KBの推しメンにしてたのがバレたとか……」



「TKB!?」



「いやちげぇよ。ていうかTKBってお前……、ん? あれ、まさかお前……」



「ごめん急に眠気がきた。それじゃあ」



 そう言って僕は速やかに通話を切る。

 どうせまたかかってくるだろうから電源も切ってしまう。



(危なかった……。あのままだと、僕はとんでもないことを喋ってしまうところだった……)



 どうやら僕は、相当重傷なようである。

 これはもう、後ろめたいとか気にしている場合じゃなさそうであった。



(一刻も早く、このピンクな記憶を消し去らなくては!)



 気分をリフレッシュするなら、やはり好きなことをするのが一番だ。

 大好きなロールプレイングゲームをやって、記憶を上塗りしてしまおう。

 マッサージの練習のせいで一週間ほど空けてしまったが、やりかけの大作がまだ……



 ピーンポーン♪



 ……おや、誰か来たようだ。




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