第7話 僕の部屋に先輩を招待
あれから数日が経ち、僕はなんとか落ち着きを取り戻しつつあった。
最初のうちは赤面してまともに見られなかった先輩の顔も、今では普通に見られる程度には回復している。
「おはようございます。藤馬君♪」
「お、おはようございます。先輩……」
しかし、やはりどうしてもぎこちなさは抜け切れていない。
彼女の家で、あんな情けない痴態を晒したのだから無理もないと言えよう。
「んん? どうしましたか?」
「っ!?」
僕の態度が気になったのか、先輩が確認するように顔を近づけてくる。
距離が縮まって近くなった声の振動が耳に伝わり、ゾクリとする。
「な、なんでもありません! 大丈夫なんで、その、もう少しだけ距離を……」
「あ、そうでしたね……」
先輩に対するぎこちなさ以外にも、弊害は残っていた。
それがこの、『耳の敏感さ』である。
あの日、ちょっとした開発をされてしまった僕の耳は、これまで以上に敏感になってしまっていた。
性感帯というレベルではないかもしれないが、脇腹だとか足の裏くらいには感度が良い。
このことについては先輩も責任を感じているらしく、耳への接触にはなるべく配慮してくれている。
……少なくとも、人前では。
「それで藤馬君、今日はどちらへ?」
「……僕のウチです」
「…………ええぇっ!?」
(よし、やったぞ!)
先輩を驚かせられたことに、僕は内心でガッツポーズを取る。
今日の目的の第一段階は成功だ。
「も、もしかして、その、藤馬君のご家族に紹介いただけるってことですか?」
「いえ、違います。今日両親は出かけていますので、先輩とは二人きりってことになりますね」
「っ!?」
先輩のわかりやすい反応に、僕は増々気分を良くしていく。
(ふっふっふ……。いつもはやられっぱなしの僕だけど、今日は僕がやり返す番だ!)
そう。今日の目的は、日頃僕を一方的に攻め立ててくる先輩に対する、ささやかな逆襲である。
先日のことで、僕は十分に理解することができたのだ。
ただ耐えているだけでは、僕の体は到底もたないということを……
僕は先輩の攻めに耐えられる男になることを目指している。
しかし、何もされるっぱなしである必要はないのだ。
攻撃は最大の防御とも言うし、今後は僕の方からも積極的に先輩を攻めてやろうと思っている。
「おっと、着きました。先輩、ここが僕の家です」
そんな後ろ暗いことを考えているうちに、いつの間にか我が家の前に辿り着いていた。
無意識でも辿り着ける辺り、人間の帰巣本能も中々捨てたものではない気がする。
「さあ、上がってください」
「は、はい……」
緊張した面持ちの先輩が、非常に控えめな態度で玄関に上がる。
先輩は見た目が清楚なので、こう控えめだとまるでどこぞのお嬢様のようである。
実際、先輩は周囲からそんな印象を受けているらしいのだが、僕から見ればむしろコチラの方が新鮮であった。
僕は先輩を自分の部屋に通し、二人分の飲み物を用意する。
もちろん変なモノは入れたりしていない。
「先輩、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「自家製の麦茶なんかで申し訳ありませんが、味は保証します」
「あ、はい。……本当、とても美味しいですね」
そんな会話を交わした後、しばしの沈黙が流れる。
普段だったら気まずいと感じる空気だが、僕にとってはこれも予定通りの展開だ。
「……あの、藤馬君」
「はい。なんでしょう先輩」
痺れを切らしたかのうように、先輩が口を開く。
僕はそれを余裕の態度で返しつつ、次の言葉に備える。
「その、この後、ナニをするのでしょうか?」
「そうですね。今日は、先輩に先日のお礼をしたいと思いまして」
「っ!?」
先輩がビクリと反応をする。
やはりあの時のお礼と言われれば、変なことを想像してしまうようだ。
「あ、あの、藤馬君……。私、今日はその、あまり可愛い下着を付けていなくて……」
「っっ!? ちょ、ちょっと待ってください! なんで下着の話になるんですか!?」
「え、だって、先日のお礼なんて言うから、てっきり……」
「いやいやいや! 先日のお礼って、耳そうじに対してのですからね!? そこまで過激なことはしませんからね!?」
な、な、なにを考えていたんだ先輩!
いや、そう仕向けたのは僕だけど、僕が本当にそんなことをすると思ったんですか!? 僕ですよ!?
などと情けないことを考えていると、先輩がわかりやすく脱力する。
「なーんだ。期待して損しちゃいました……」
「き、期待って……、え? もしかして、本当に僕がそんなことをするとでも?」
「だって藤馬君、珍しく強気でしたし、先日の件で吹っ切れて、ついに本気をだしたかと……」
「ほ、本気って、今日だって僕は本気ですよ!?」
「じゃあ、何をしてくれるんですか?」
先輩の挑発的な視線に、僕は一瞬たじろぐ。
しかし、今日の為に僕だって準備していたのだ。
ここは退くワケにはいかない。
「それは……、マッサージです!」
僕は胸を張るように、高らかに宣言した。
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