108話 オススメするアニメを選ぶ時は慎重に

「はぁーー何やってんだろう」


 朝起きてすぐ家を飛び出し、私は町を歩いていた。


 昨日、どうして私、先輩にあんなことを言っちゃったんだろう。

 恥ずかしいな……いや、恥ずかしさよりも……ショックの方が大きいな。


 やっぱり振られちゃった……。

 勇気出して、大胆なことしても先輩、振り向いてくれなかったな……。

 わかってた。わかってたよ。

 先輩のまわりには私よりも可愛くて美人で魅力的な人がいるし……。


 悔しい。

 

 悔しいなーー……。


 失恋ってこんなに辛いんだな……。


「先輩……」


 いつからこんなに好きになったんだっけ……あんなオタクで、イケメンでもない先輩のことを……。

 

 ……………………


「アルバイトで入った星川 湊です! よろしくお願いします!」


 楽だと思って本屋のアルバイトを始めた。

 

 店長もまわりの人も愛想を良くしていればみんな優しくしてくれた。みんな私に話しかけてくれた。

 ただ、一人を除いて……。


「ウッス……」


 神原先輩……無愛想で隙あらばアニメ雑誌を読む、まさにオタクって感じな人。

 この人だけは私に興味を示さなかった。


「せーんぱい。何見ているんですか?」


 ちょっと気に食わなかったので、私は先輩を振り向かせようとした。

 だけど……。


「何って……アニメージュ……」


「へぇーー先輩、アニメ好きなんですか? 私も好きなんです! 鬼○の刃とか、東京リベ○ジャーズとか見てましたよ!」


 そう言うと、先輩は溜息をこぼして


「そうすか……面白いよね」


 と呆れたように言った。

 ちょっとイラッとしたのを覚えている。


「先輩のオススメのアニメ教えてくださいよ」


 そう聞くと先輩は唸りながら考え始めた。


「うーん……星川さんってどんなアニメが好きすか?」


「えーとですね〜〜恋愛系のやつとか好きですね! オ○ンジとか君に○けとか」


「そうですか。だったらスクールデ○ズっていうアニメをオススメします。最初はよくある学園物だと思われますが、侮るなかれ。後半の展開はめちゃくちゃドキドキしますので、ぜひ」


「わかりました! 観てみます〜〜」


 こうやっててきとうにアニメみて話し合わせればおちるだろ。

 オタクってちょろいな。

 

 視聴後。


「先輩!! な、なんですかあれは!」


「あ、ちゃんと見たんすか」


「いや、見ましたけど全然恋愛じゃないじゃないですか!」


「いやいや、ス○デちゃんと恋愛してましたやん! 甘酸っぱい三角関係的な!」


「ぜんっぜん! 甘酸っぱくなかったです!! ドロドロじゃないですか! それにドキドキって恋のドキドキじゃなくてガチのドキドキじゃないですか!?」


「恋愛のリアルを描いた素晴らしき作品です」


「リアル過ぎて吐きそうでしたよ……でも最後主人公が刺されてめちゃスッキリしました」


「ははは、星川さんも同じことしそうっすね」


「それどういうことですか!!」


 強く言うと先輩はちょっとオドオドし始めた。


「いや、なんとなくです……サーセン」


「それにしてもああいう色んな女に手を出す男は最低ですね」


「禿同。男なら心に決めた一人の女性を愛し続けるべきっすね!」


「そうですね。まあといっても先輩にはその一人もいなさうですけど!」


「い、いるし!! 二次元だけど……」


「ふふ、先輩って意外と面白いですね」


「星川さんは意外と口が達者ですね」


 こうして私と先輩は色々話すようになった。

 趣味とか趣向とか全然違うけど、それでも先輩との会話はとても楽しかった。

 友達や当時付き合っていた彼と話すよりも……。


 気づいたら先輩のことばかり考えるようになっていた。

 でもこの時はただ、"面白い人だから"という認識だったからだと思う

 

 これが明確な"好き"になったのは……。


 そうだ。"あの時"だ……。

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