109話 優しさと好意の境界線

 あれはある時のバイトの帰り道。

 先輩と上がり時間が同じだったから一緒に帰っていたんだ。

 

 駅へと続く繁華街の道。

 いつものように他愛のない会話をしていた中で、私はずっと気になっていたことを先輩に聞いた。


「先輩って彼女いるんですか?」


「は? なんだよ突然JKみたいなこと聞いて」


「現役のJKですけど。それに別に彼女の有無くらいJKじゃなくても聞くでしょ」


「うーん。逆にいると思う?」


「いないと思う」


「それが真理だ」


 よくはわからないが恐らくいないということだろう。

 相変わらず面倒くさい言い回しをする。


「作ろうとか思わないんですか?」


「うーん、別に思わないな」


「どうして?」


「どうしてってそりゃあ作る余裕も金も社会的地位もルックスもないからな」


「ふーん。でも先輩、磨けばいい線いくと思うんだけどな〜〜」


「ははは、世辞でも嬉しいよ」


 先輩は笑って誤魔化した。

 お世辞ではなかったんだけどな……。


 そんな時に……。


「ううう……」


 店の前で泣いている小学生くらいの女の子がいた。


「先輩、あれ」


「ロリが泣いている……何かあったのかもしれない。星川、声をかけてこい」


「は!? なんで私が?」


「俺が話しかけたら事案になる」


 よくわからない言い訳を言ったが、先輩の言う通りにし、私は少女に声をかけた。


「どうしたの?」


 そう聞くと女の子は息を整えながら話し始める。


「ママの誕生日プレゼント買いに来たんだけど……売ってなくて……うう」


「誕生日プレゼントって……」


 私達の少女がいたお店に目をやった。

 

「アニ○イトやん」


「うん……ママ"とうけんえんぶ"っていうアニメが好きで中でも"きよ"って人が大好きなの。だからそのキャラのキーホルダー買いに来たんだけど売ってなかったの……」


「へ、へーー……なかなかすごいお母さんね」


「あ、ああ」


 お互い顔を引き攣っていた。

 すると。


「うう、色々探したけどなくて……どうしたら……」


 困っている少女。

 助けてあげたいけど……アニ○イトにないじゃどうしようもない。ここら辺のアニメショップはこのアニ○イトしかないし……。


「俺が探すの手伝ってやろうか」


 諦めて去ろうとする前に先輩が言った。


「本当!!」


 少女は嬉しそうに声を上げた。


「ああ! 俺に任せとけ! ここら辺のお店は熟知しているからな!」


「ちょっと! 先輩!」


 てきとうなことを言っている。

 そう思っていたけど。


「まあ任せろって」


 妙に自信満々な先輩を見て、止めるのをやめた。


「欲しいキャラってその"きよ"ってので間違いないの?」


「うん。ママの部屋にたくさんこの人いるから間違いない」


「なるほど……お母さんも筋金入りのオタクのようだな。キャラも結構人気みたいだ。売り切れるわけだな」


「どうするんです?」


 聞くと先輩はドヤ顔で私の方を見て、


「俺を誰と思っている! ここら辺でアニメグッズを取り扱っている店は熟知している」


 そう言い先輩は町外れの小さな雑貨屋に少女を案内した。


「え、こんな所にあるんですか?」


 アニメグッズとか置いてあるとは到底思えないけど。


 しかし、中に入るとオシャレな雑貨の中に少しだけアニメのキーホルダーやグッズが置いてあった。


「どうしてこんな所に……」


「ここの店主の女性はアニメが好きでさ。自分で仕入れて売っているんだ。最近女性のアニメファンも増えているしな」


「へぇー」


「あった!!」


 少女が嬉しそうに声を上げる。

 

「よかったな」


「うん! ありがとう! オタクのお兄ちゃんと! お姉ちゃん!」


 満面な笑みの少女を見て心がホットした。


「バイバイ〜〜」


「ああ、オタクのママによろしくな」


 店を出て少女と別れた。


「先輩って優しいんですね」


「俺の半分は優しさで出来ているからな」


「見直しましたよ」


「サンキュー。あ、そうだこれやるよ」


 そう言い先輩は前髪用のヘアクリップを渡してきた。


「可愛い。え、なんですかこれ?」


「さっきの雑貨屋で買ったんだ」


「なんで?」


「なんでって……そりゃあお前の髪が長いからだよ。店長は許しても俺はその長さは許さない。仕事中だけでもその髪留め使ってくれ」


「あ、ありがとうございます……」


「それと……お前の顔は三次元の中でも整っている方なんだからもっと見せた方がいいよ……だから……その……使ってくれ」


 照れながら先輩は言う。

 この時だ。

 この時私は先輩を異性として意識し始めたんだ。

 言っていることはよくわからないけど、でも面白くてとても優しい先輩のことを———。


「ありゃ? キモいとか言われると思ったが……まあいいや、帰ろうぜ」


「はい!」


 私は好きになった。


 それなのに……。


 ……………………


 先輩に振られてしまった。


 先輩に振り向いてもらえなかった。


 初めて本気で好きになった人なのに……。


 これからどうしよう……。


 もう巫女グランプリとかどうでも良くなっちゃった。


「———しかわ!」


 京都に帰って先輩のことを忘れようかな。

 そうしよう。


「星川!!」

 

 その時、声が聞こえた。

 振り向くとそこには……。


「先輩……」


「星川……」



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