94話 やはりオタクに恋は無理らしい

 男と生まれたからには


 誰でも一生のうち一度は夢見る


 童貞卒業!!


 チェリーボーイとは!


 童貞卒業をめざす!


 男達のことである!


 ……というか俺である。


 やばいな……童貞卒業の誘いを朱音先輩に言われて揺らいでいる俺がいる!

 

 すぐ近くに全裸で尚且つ俺に好意を持っていて、発情している女性。

 恐らくだが、今この世界で俺が最も童貞卒業に近い存在だろう。


 でも、でも……


「やっぱり良くないです。急にこんなこと……こういうのはやっぱりもっと色々と段階を踏んでからじゃないと」


「段階か……」


 そう言い、朱音先輩がくっついてくる。


「そんなこと考えなくていいよ。そんな倫理観、今は必要ない……ただゆーくんのしたいことをすればいいよ」


 したいこと……。


 ゴクリと唾を飲んだ。

 

 朱音先輩がゆっくり自分の指を俺の指に絡んでくる……なんだこれ……こんな積極的なアプローチは今までなかったぞ。

 

 色っぽい……。


 脳が蕩けそうだ。


 何も考えらなくなる。


「せ、先輩、お、俺は……」


「ゆーくん」


 ちゅ


 有無を言わさず接吻。

 さらに脳が溶けていく。


 清楚系な朱音先輩がここまでビッチだなんて驚いた……まさしく俺が大好きな清楚系ビッチだ。

 

 もうこれは流れに身を任せるしかないのか……。


「朱音先輩……」


「ゆーくん……好きだよ、だから……だから」


 "私を選んで"


 耳元で囁く。

 先輩を選んだら、この体が俺のもの……ようやく童貞が卒業できる……!!


 別にいいじゃないか!


 結局は誰かを選ばないといけないんだ。


 だったらもうここで先輩を選んでしまえば……。

 もともと先輩のことは美人だと思っていたんだし、いいじゃないか。


 先輩の体に手を伸ばそうとした。


 その瞬間


"やっぱり……君は本当に面白いね"


"ずっと、ずっと私のそばにいて"


"私は先輩のことが好きです"


"好きだよ……神原くん"


 四人の言葉がフラッシュバックした。


「お、俺は……」


「どうしたの……ゆーくん?」


 顔を覗き込む朱音先輩。


 お、俺は……!!


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!」


 突然発狂した。


「ゆーくん、どうしたの? きゃっ!」


「ああああああああああああああああああああああああーー!」


 先輩をおしのけて、俺はそのままの勢いで部屋を飛び出し、さらにホテルも抜け出した。


「ああああああああああああああああああああああああああ」


 叫びながら俺は夜の浜辺を走り続けた。

 ただ、意味もなく、無駄に。


 そうすることで自分自身を保とうとした。


 結局、今回も……。


 答えを出せなかったのだ。


「俺は童貞なんだぁぁぁぁぁぁぁーー!!!」




 




 

 

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