95話 気遣いのできる人になれ

 旅行最終日の朝を迎えた。


 無限に続くかと思われた旅行も今日で終わり。


 みんな次の日仕事ということもあり、昼過ぎの電車で帰ることになっている。

 

 ということで、最終日は来宮神社でお参りをし、駅前の商店街でお土産を買うという予定になっていた。


 〜〜来宮神社〜〜


「うわぁぁぁぁぁーー! 木がすごい!!」


「木じゃなくて御神木ですよ、香乃さん」


「ほんとすごいね〜〜」


 大きな御神木の前で写真を撮る、香乃、星川、西園寺さん。


 いつもと変わらない3人に対し、残りの俺たちは……。


「……」


「……」


「……」


 口数が減っていた。


「どうしたの? ゆうくん今朝から様子がおかしいよ」


「朱音さんも!」


「那奈さんも、どうしたんですか?」


 当然のごとく3人が心配する。


「私は何ともないよ、ふふ……はぁ……」


「わ、私も……はぁ……」


 溜息をこぼし元気がない二人。

 そして俺も。

 

「い、いや何でもないんだ……本当に何でも……へっくしゅん!!」


 くしゃみをした。

 そう、あの後俺は部屋にすぐ戻れず数時間砂浜を走っていたのだ。

 寝不足と疲労で今にも倒れそうだ。

 はぁ……。


 様子がおかしい俺達を見て、残り女子3人は疑問を浮かべる。

 特に鋭かったのは星川だった。


「先輩達、昨日何かありました?」


 3人とも体がギクッとした。


「い、いや別に何もないよ。ねぇ、那奈……姫咲さん」


「え、ええ。私達は別に普通だよ、そうでしょ朱音ちゃん」


「ふふ、はい……私なんて普通で何の魅力なんてないんだから……」


 朱音先輩のショックが予想以上に大きかった。


 そりゃああんだけ大胆なことして、逃げられたもんな。ネガティブになるわ。


「朱音さん! 何かあったんですか?」


「何もないよ、香乃ちゃん。私には何もないよ……」


 あんだけミステリアスだった朱音先輩が今や見る影もない。

 ただの陰キャに成り果ててる。

 このままでは確実に何かあったこと言及される。


「朱音さんも今朝から様子がおかしいです。もしかして先輩に何かされました?」


 俺を疑う星川。

 俺が何かしたというより、何かされそうになったんだよな。


「え、もしかしてゆうくん、夜這いしたの?」


 されたんだよなあ

 

「別にゆーくんは何もしてないよ……そう、何もしてこなかったの……」


「え、ゆうちゃんが何もしなかったってどういうこと??」


「那奈さんもどうしたんですか?」


「わ、私も何ともないよ……そう結局何もなかったの……」


 まずい、このままだとそのうち二人がボロを出すぞ。

 う、うまくはぐらかさないと!


「ふ、二人とも体調が悪いだけだよ」


 神の御膳の前で俺は嘘をついた。そのうち天罰が降るだろうな。


「朱音先輩も姫咲さんも旅行の疲れが出ちゃっているんだよ! ほらみんなに比べて年上だからさ」


 やっべ!


「そうだね……私はもう四捨五入したら30だもんね」


「そっか、ゆーくんはもっと若い体が好みだったのか……」


 言った直後二人の鋭い視線を浴びる。

 流石に歳のことはタブーだったが!


「明らかに様子が変です。先輩、昨日の夜何があったんですか?」


 星川が突き詰める。

 やばい……な、何か! 

 良い言い訳を見つけなければ!、


 ああ! あれしかない!!

 女子が体育を休む時に言う"アレ"だ!


 問い詰められながら俺はみんなに言い放った。


「その、姫咲さんも朱音先輩も今日"多い日"なんだよ! うん!」


 我ながら現実的で納得がいく言い訳ができたぜ。

 そう感心していたが、その直後に、さらに鋭く刃物のように尖った視線を俺は背中で浴びた。


「え?」


 振り向くと朱音先輩も那奈さんも静かに怒っているようだった。


「あれ、なんで?」


「神原くん……」


「ゆーくん……」


 ペシ! ペシ!


「あべし!!!」


「「もう知らない!」」


 俺の頬を叩き、二人は神社を飛び出した。


 残った3人はゴミを見るような目で俺を見て、


「最低」


「最低だね」


「最低です」


そう言い残し、那奈さん達の跡をついていくように俺から離れていった。


 あれ……天罰下るの早くない……?

 

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