88話 安易な下ネタに逃げるな

「みんな、何事もなくてよかったね、香乃ちゃん!」


「うん! でも、ゆーくんが助けたあの子はライフセイバーの人にめちゃくちゃ怒られてたけど」


「当然ですよ。一歩間違えたら先輩も香乃さんも溺れ死ぬところだったんですから」


「ふふ、若気のいたりだね」


「うん……」


 事態も無事解決し、みんなでレジャーシートで座りながら夕陽が沈む海を眺めていた。


「それにしても、綺麗……」


「そうですね」


 大人な感じで夕陽を見ている姫咲さんと朱音先輩。


 対して


「よーし! 夕陽に向かって泳いでこようー!」


「香乃さん! まだ安静にしていてください!」


 香乃と星川は相変わらずだった。


 こうして2日目の海水浴が無事終わろうとしていた。

 しかし……。


「うーん」


 俺は一つ気がかりのことがあり、ずっとそれについて考えていた。


「さっきから何考えているの、ゆうくん」


 唸っている俺に西園寺さんが話しかけてきた。


「いや、話すようなことではないから」


 溺れている時見ていた夢が気になるなんて言ったら笑われるしな。


 にしても妙にリアルな夢だった。

 あの俺の娘も今まで見たことない顔だったし、部屋の感じも今でも鮮明に覚えている。


 だけど、俺の嫁さん……彼女だけは顔が見れなかったな。

 そこが一番気になっていたのに。


 でも所詮は夢。

 それが正夢になるわけがない。

 ましては未来にタイムリープしたなんて、そんな漫画みたいな展開あるわけがない。


「ふふふ、溺れている時、変な夢でも見たの? ゆーくん」


「え!?」


 突然、朱音先輩が俺の前に顔を出しそう言う。


「は、は!? ち、違いますよ!」


 図星をつかれて変に動揺してしまった。


「どうせエッチな夢でもみていたんでしょ、先輩のことだし」


「確かにありえそう」


 星川の言葉に西園寺さんが共感する。


「いや、ちげぇーし!」


「だったら何かあったの、ゆうちゃん?」


 香乃が心配そうに俺を見る。


 うーん。はぐらかして、変に気を遣わせるのも嫌だし、てきとーに答えるか。

 香乃のおっぱいを見て、俺は答えた。


「いや、香乃を助けた時、香乃の胸部が背中にあたったんだけどさ。香乃、前はEカップって言ってたけどあの重量はFだったと思う。この短期間でここまでの成長したのは何かなーーと悩んでてさ。それでやっぱ一番に浮かんだのがここ最近、俺、お前とよく外食してたから、ふと———」


 言い切る前に俺は香乃に足を掴まれる。


「お、おい! 香乃!?」


「ゆうちゃんの……」


 そのまま、波打ち際まで引っ張られる。

そして。


「香、香乃さん? 何を……!?」


「ゆうちゃんのエッチ! そして、馬鹿野郎ーー!!」


「うわぁぁぁぁぁぁーー!」


 思いっきり水面へと投げられた。

 

「あれはゆうくんが悪い」


「はい」


「うん……」


「ふふふ、相変わらずデリカシーは皆無だね」


 浜へ上がると誰も心配してくれなかった。


 安易な下ネタはしない方がよかったな……。


 俺が香乃に投げられた所で、2日目の海水浴は終了し、ホテルへ戻った。


………………………


「はぁーー疲れたーー!」


 夕食を食べ終わり、みんながお風呂に入っている間、俺はベッドで横になった。


 昨日みたいにトラブルになるのも嫌だしな。


 にしても今日も色々あって疲れたな……。

 ナンパ男に出会ったり、

 西園寺さんに誘惑されたり、

 溺れている香乃を助けて溺れたりと……ここまでトラブル続きの旅行は初めてだ。


 まあでも今日一番良かったのは姫咲さんとの間に誤解が解けてよかったかな。


 あれ、そういえば姫咲さん、朱音先輩が来る前に何か言いかけていたよな……何だったんだろう。

 ま、明日聞けばいいか。


 そう思い、寝ようとした時、LINEの着信音が鳴った。


 確認すると姫咲さんからだった。


"話したいことがあるの。よかったらビーチに来てくれる?"


 話したいこと? 

 さっきのことかな? 

 俺は起き上がり、ビーチへと向かった。


 


 

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