83話 無理なナンパはやめておけ

 やれやれ大変な目にあったぜ。

 

 なんとか心と体を落ち着かせて浜に上がった。

 西園寺さん……日に日にアピールが過激になっていく。いつまで理性がもってくれるかだな。


「ふー」


 トラブルが起きて疲れたし、海の家でドクペでも買って休むか。

 そう思い海の家に向かおうとすると。


「え、あ、いや……」


 姫咲さん? なんかまた知らない男の人に絡まれているぞ。


「お、お姉さん一人でしょ? よかったら一緒にお茶しない?」


 海でお茶はないだろ。

 なんか、さっきのチャラついたグループと雰囲気が違うんな〜〜。

 大学デビューに失敗した奴みたいだ。

 夏に無理して彼女を作ろうとしている学生。

 やっぱりこういうのが多いんだな、湘南に集中していると思ってた。


「え、えと……」


 厄介な奴に絡まれて困っているな。


「ご、ごめんなさい……」


 そう言って去ろうとするが。


「お、お願いします! 少しだけ! ほんの少しだけ! お話だけでも!」


 その場で思いっきり頭を下げた。


 うわーー懇願し始めた。

 なんかここまで来るとむしろ応援したくなるな。


「い、いや……その……えー……」


 姫咲さんがさらに困惑する。

 よし! 彼には悪いがここは助けに入る。


 あれ、待てよ。なんて助ける?

 さっきはみんなが口裏合わせて撃退したが、今回はその手は使えなさそうだ。

 うーん。


 俺が姫咲さんの彼氏として出る? 

 いやいや、それはなんとも恐れ多い。


 だったら俺もナンパとして出る?

 いやいや、演技でもナンパは絶対したくない。


 だったら……"アレ"でいくしかないな。

 ちょうどこの前のことも聞きたいし、いいきっかけにはなるか。


「お願いします! お姉さん! 一目惚れしたんです!」


「ひ、一目惚れ……! いや、その私」


「お姉ちゃん!」


 ここは弟として参戦する!


「え?」


 ビックリした表情で俺を見る。


「お姉ちゃんどこ行ってたんだよ。ってあれこの人は?」


「え、えーと……」


「あ、弟さん……す、すいません姉弟で来ていたんですね! そうとは知らず失礼しましたーー!」


 逃げるように去っていった。

 彼には悪いことをしたな。


………………


「か、神原くん、さっきはありがとう」


 お互い海の家で飲み物を買ってレジャーシートの所まで戻ってきた。


「いえいえ、困っていた様子だったので」


「う、うん……はは……」


「「…………」」


 うーん。やはり俺がフレッシュに"お姉ちゃん"と言ってから様子が変だ。

 明らかに動揺している。


「さ、さーてまた泳いでこようかな」


「あ、ちょっと待ってください」


 離れようとする姫咲さんを止めた。

 ここではっきりさせないと俺の心のモヤモヤが晴れない。


「え、なに?」


「あの、この前、一緒にユリユリのアニメ見た夜何があったのかなって」


「え……?」


「次の日の朝俺が"お姉ちゃん"って言ってから、明らかに姫咲さん様子がおかしいと思いまして」


「そ、それは……」


「教えてください。俺が姫咲さんに嫌な思いをさせていたなら謝りたいし!」


 無意識にオネショタプレイを要求していたかもしれないしな。

 もしそうだったら全力で謝ろう。


「いや、神原くんは私に何もしてないよ。それは安心して」


「だ、だったら」


「むしろ何かしたのは私の方なの」


「ん……?」


 姫咲さんが俺に何かした……?

 一体どういうことなのだろうか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る