73話 お風呂で歌う時はほどほどに
西園寺さんの問いにより、おっぱい王国が崩壊した。
「え……?」
急な質問に朱音先輩は呆然としているようだ。
「どうしてそんなことを聞くの?」
「え、あ、いや……大学の時とか一緒だったみたいだし」
「私も聞きたいです。さっきの質問も先輩にはぐらかされちゃったし」
星川も乗っかる。
「そうだよ! 朱音さんとゆうちゃんって付き合ってたのー!?」
香乃まで……。
これはまずいぞ。
「うーん。別に私とゆーくんはみんなが思う関係ではなかったと思うよ」
「じゃあ付き合ってなかったってことですか?」
星川の問いに朱音先輩は、
「うん」
と一言だけ言った。
「そっか、よかった〜〜」
安堵している西園寺さん。
みんな、本気で俺と先輩が付き合っていると思っていたのか。
まあ、あれだけ朱音先輩が意味深なことを言ってたら怪しいと思うが。
俺だぞ!!
大学で毎日ぼっち飯をキメていたんだぞ!
そんな俺が美人な先輩と付き合えるわけがない。
「じゃあ、じゃあー! 朱音さんってゆうちゃんのこと別になんとも思ってないの?」
香乃が次に聞く。
盗み聞きで申し訳ないが、これは俺も聞きたかった。
今、朱音先輩は俺のことをどう思っているのだろう。
これを知ればこの俺のモヤモヤも晴れる気がする……!
俺はとうとう女湯の壁に耳を当てた。
「ふふ。なんともは思ってないよ」
「え、じゃあどう思ってるの……?」
姫咲さんの問いに朱音先輩はまた「ふふ」と笑い、
「それはみんなと同じだよ。みんなと同じで私もゆーくんのことは好きだよ」
「え……?」
思わず声が出てしまった。
「そ、そ、それってその、こ、後輩として? そ、そ、そ、それともい、い、異性として?」
声だけでもわかるくらいに西園寺さんはえらく動揺していた。
「うーん。どっちもかな? 後輩というか気が合う友達としても好きだったし、異性としても好きだよ」
ここまではっきり言った朱音先輩に、みんな言葉を失っていた。
それは俺もだった。まさか朱音先輩が"まだ"俺のことが好きだったなんて……。
いや、これも俺のモテ期のせいだ。
モテ期の毒牙が朱音先輩にまで届くとは……。
「じゃあ、今回の旅行も先輩に会う為に参加したんですか?」
「うん。大学卒業してからも会いたかったけど、ゆーくん、スマホ変えたみたいだから連絡先とか知らなくて会えなかったの。だから京也くんに声をかけられてすごく嬉しかったな〜〜」
確かに朱音先輩が卒業してから高画質でゲームする為にスマホを変えたな。
「そ、そうなんですね……」
「くそぉーー! またライバルが!」
悔しがる西園寺さんと香乃。
「ふふ。誰と結ばれても恨みっ子なしでいこうね」
俺が言うのもあれだが朱音先輩の強キャラ感がぱないな。これは西園寺さんも香乃の気持ちも少しわかるかも。
「だけど、それじゃあ一つ納得いかないことがあるんですけど」
「ん? 何かな湊ちゃん」
「先輩のこと好きだったら、どうして先輩のこと振ったんですか? 告白されたんですよね?」
な、何ぃぃぃぃーー!
どうしてこいつ、そんなことを知っている?
「あ、そうだよそうだよ! 京也さんから聞いたんですよ! 朱音さん、ゆうくんを振ったって! 」
あの野郎……!! 何でもかんでもしゃべりやがって
次会った時、キン肉バスターくらわしてやる……!!
しかし、これはまずい!
なんとかして誤魔化さないと!
先輩に気を遣わせてしまう!!
それに後々、みんなに聞かれて厄介なことになるぞ!!
「ん? それってどういうこと?」
「え、朱音さん、ゆうくんを振ったって聞いたけど……」
「いや、それは———」
朱音先輩の口から真実が語れてしまう。
何か方法はないか! この話題を切り抜ける何か……!!
「はっ!!」
ピンチに陥った時、いつも俺の脳内ではあるメロディーが浮かんでいた。
そして、俺はそれ無意識に女湯に聞こえる声で歌った。
「プ○キュア〜♪ プ○キュア〜♪ プ○キュア プ○キュア プ○キュア プリティでキュアキュア! ふたりはプ○キュア〜〜!!」
どうだ……25歳の全力のプ○キュアは……!!
そしたら、
「ど、どうかしましたか?」
振り向くとホテルの従業員さんが苦笑いしながら立っていた。
「あ……えーと」
これ完全にやばい奴認定されているな。
しかも最悪なことに女湯を覗いているように見えるし。
「ひとまず、上がってお話し聞かせてもらってもいいですか?」
「え、あ、いや、その…………はい……」
一難去って、また一難。
ぶっちゃっけありえない……。
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