69話 信じない


 先輩は朱音さんに告白していた……。


 その事実を知ってみんな固まっていた。


「そんな……ゆうくん二次元にしか興味ないって言ってのに……」


「ゆうちゃん……二次元しかヌけないって言ってたのに……」


「二人とも神原くんのことなんだと思っているの……? あと香乃ちゃんはオブラートに包む言い方を覚えようね……」


 落ち込む二人に冷静なツッコミをする姫咲さん。

 姫咲さんだけはどこか落ち着いている。


『まあ、由の性格を見るにそうっすよね。でも朱音先輩に関してはあいつ本気で恋してたみたいなんすよ』


「本気で恋……」


 私達があれだけアタックしてもダメなのに。そんな先輩が本気で恋におちるなんて……。


「えと、どういう経緯で二人は出会ったのかな?」


 西園寺さんが聞く。


『うーん。なんだったっけなーー。確か"AKIRA"だっけな?』


「アキラ?」


 誰かの名前?

 

「健康良好不良少年……!!!」


 姫咲さんが突然呟き、みんなが見る。


「姫咲さん知ってるの!?」


「うん。えとSF漫画の金字塔……!!」

  

「その漫画がゆうくんと朱音さんに何か関係あるの?」


『えーと、朱音先輩がAKIRAを見ていたところを由が声をかけて仲良くなったみたいです。そこから朱音先輩が所属している漫画サークルにも入るようになって、本気で朱音先輩のこと好きだったんだなと思います』


 そうだったんだ……同じサークルに入るほど朱音さんのこと好きだったんだ……。


『まあでも、あいつ超のつくほど奥手で女性経験もないし、逆に朱音先輩も美人だけど、鈍感で何考えているのかわからなかったから友達という関係が長かったですね。でも朱音先輩が4回生に上がった時、あいつ勇気を出して、朱音先輩を呼び出して告白したんです。俺の後押しとかなしに、自分の意思でね』


 あの先輩が誰にも言われず自分の意思で告白したなんて、想像できない……。


『でも結局振られちゃって。さらにはサークルの奴にその現場見られちゃってみたいで。話が広まり、居づらくなったのか由はサークルを辞めました。朱音先輩も保育士の勉強が忙しくなり、それ以降二人は会ってなかったと思います』


「ゆうくんにそんなことがあったんだ……」


「ゆうちゃんがリアルの女性に恋をするなんて信じられないなー」


 香乃さんと同じ意見だ。

 やっぱり信じられない。

 だけど、今日の先輩の様子を見ていると、妙に納得してしまうのも事実だ。

 だったら先輩は今でも朱音さんのことが……。

 

 私だけでなくエレナさんも香乃さんも同じことを思っているのだろうか、顔が少し落ち込んでいた。


 そして……。


「神原くん……」


 姫咲さんも……そんな感じがした。


『いやーーでも、俺あいつの唯一と言ってもいいぐらいの友達じゃないすか。だから今回の旅行、サプライズで朱音先輩呼ぼうと思って、あらゆる人脈を使ってようやく見つけ出したんすよ! 朱音先輩も意外と乗り気でよかったですよーー! 西園寺さんと香乃ちゃんには悪いけど、これで二人の仲がまた深まり、今回こそ告白成功すればいいかなって! あ、そうだ俺は旅行行けなかったんで、また次の機会に由置いて3人で遊びに——』


 話途中だったが香乃さんが電話を切った。


「この人随分、余計なことしたみたいね……」


「うん! 次会った時ドロップキックくらわす!」


 ガチトーンなエレナさん、それに物騒なことを言う香乃さん。


 先輩は朱音さんのことが好きだった……でも、それにしてはあの同室と決まった時の嫌そうな反応。妙に気になる。普通好きだった人と急接近できるんだから喜んでもいいはずなのに……もしかして。


「うう、朱音さんにゆうちゃん取られちゃうよ」


「まあまあ、落ち着いて香乃ちゃん。まだ神原くんが今も朱音さんのことが好きだと決まったわけじゃないから……」


 姫咲さんの言う通りだ。

 先輩の気持ちはもう冷めているからもしれない。だからあの時嫌そうな顔をしていたんだ。昔告白した人と同じ部屋だから。


「ひとまず、私、ゆうくんの気持ち確かめてくる! その方が早いし!」


「あ、エレナちゃん! 私も行く!」


「私も行きます……」


「え、じゃあ……私も」


 こうしてみんなで先輩の気持ちを確かめに先輩達の部屋に向かった。


 しかし。


「あれ、ノックしても反応がない……」


「お風呂じゃないかな……?」


「も、もしかして!! 二人で出かけちゃったのかな!!!」


「この時間帯にですか? やってるところなんて居酒屋ぐらいしか……」


 居酒屋!!!!


 みんなに電流が走った。


 居酒屋=お酒=酔う=酔った勢いで一線を超える。


「探しに行こう!」


「おおーー!」


「はい!」


「ええ……まあ危ないから私もついていく……」


 こうして先輩達を探しに向かった。




 

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