67話 蟹味噌を美味しいと思うことが大人である何よりの証明
前回グーチョキパーで部屋割りを決めた結果……。
701号室
「なんで私が香乃さんとなんですか?」
「こっちのセリフだよ!」
702号室
「あーあ。ゆうくんと同室になり損ねたな〜〜」
「残念だったね……」
701号室は香乃と星川、702号室西園寺さんと姫咲さん。
そして703号室は———。
「…………」
「ふふ」
俺と朱音先輩になった。
俺が思う最悪のパターンになってしまった。
昔からくじ運やガチャ運はないんだよな。
「どうしたの? そんなオドオドして」
笑顔で聞いてくる朱音先輩。
「いや……誰だって女性と同室なら緊張しますよ」
「ふふふ、そっか。意識してくれているんだね私のこと」
「え?」
どう言う意味か聞き返そうとしたが、朱音先輩は荷物を置いてすぐ部屋を出ようとする。
「さあ、夕食食べにいきましょう〜〜」
「え、は、はい……」
先輩は俺と同室になっても平然としている。
相変わらずといえば相変わらずだが……。
何だか少し心がモヤモヤした。
夕食はバイキング形式だった。
みんなで同じテーブルを囲み、ホテルの料理を堪能した。
「香乃ちゃん……結構取ってきたね……」
「はい! だって他の人に取られたら嫌じゃないですか」
「いや、バイキングだから無くなることはないと思うけど……」
「それに元は取りたいです!!」
タダで泊まっているんだから元もクソもないだろ。
香乃と姫咲さんの会話を聞いて、思わず心の中で突っ込んでしまった。
いや、だがしかし……。
「はぁ……」
溜息をつきながら俺はカニを食らう。
「溜息をつきながらカニを食べる人初めて見た」
「どうしたんですか、先輩」
両隣にいる西園寺さんと星川が話しかけてきた。
「いや、別に……カニって美味しいけど剥く作業面倒くさいよなって思っただけ。しかし、その面倒くさい作業をこなしたからこそより一層味わえるということも知ってるから一概に面倒くさいの一言で片付けられないということも重々理解していてはぁーとカニのジレンマに溜息をこぼしてしまっただけさ」
「何言ってるの?」
冷静に突っ込まれる。
西園寺さん、大丈夫。俺も自分で言ったがよくわかってない。
「はぁ……」
料理を取りにいっている朱音先輩をみて再び溜息をこぼしてしまった。
「先輩、もしかして朱音さんとの同室嫌だったんですか?」
「え!?」
星川に本音を悟られる。
「いや、嫌だというより……何だろうな……」
「あ、だったら! 私が朱音先輩と代わろうか?」
嬉しそうに提案する西園寺さん。
「ちょっと、それズルくないですか!」
「いや、今みたいにまた不毛な争いが生まれるから部屋変えはしないよ」
「ちぇーー」
「………………」
星川がジッと俺を見つめる。
「急に何だよ」
「もしかして先輩……朱音さんと昔何かありました?」
「ギクッ!!」
擬音が思わず口から出てしまった。
「な、何もないよ……」
「いやいや、怪しいな……ゆうくん……」
西園寺さんも疑いの目を向ける。
「朱音先輩とはただの大学の先輩後輩だ。それ以上でもそれ以下でもない」
気持ちを追いつかせるため、注いできたビールを口にする。
「ふーん。それにしては今日一日、朱音さんのことふいにチラチラみていましたよね」
「ぶっー!!」
吐き出した。
どうしてみんな、俺が口に何かを含んでいる時に変なことを言うんだよ。
「あー! 確かに見てた! それに朱音さんのこと変に意識してたわ!」
西園寺さんまで……。
「過去に昔何があったんですか?……まさか、付き合ってたんですか?」
「ええええええーーー!!!」
向かいの席で楽しく食事をしていた香乃が大声をあげる。
「ふぉんなぁぁぁーー! ふぉーなの? ゆうちゃん!!」
「お前はひとまず飲み込んでから喋れ。リスみたいだぞ」
そう言うと香乃は口に含んでいたものをゴクリと飲み込んだ。
「その話本当なの? ゆうちゃんと朱音さんが昔付き合っていたって」
「そ、それは……」
「どうして変に意識しているんですか?」
「うーん…………」
変に追い詰められている。
何というべきか……。
「みんな何の話しているの?」
料理を持って戻ってきた朱音先輩。
皆一斉に口を塞いだ。
「ん?」
それを不思議に思う朱音先輩。
このままだと変な空気なるぞ。
そんな時。
「あ、いや、カニで一番美味しい所ってどこかなって議論してて、湊ちゃんはハサミの部分って言うんだけど、神原くんは蟹味噌が最強って、言うもんだから、二人とも熱く言い合ってたの」
姫咲さんが話題を切り替える。
ファインプレーだ!
「そ、そうなんだよな! やはり蟹味噌が一番美味しんだよーー! この美味さをわからないとはまだまだだな。"モーリーファンタジー"で遊んでいる子供のようだぜ」
俺も乗っかる。
さあ星川もうまく乗っかってくれ……!
不器用なウインクをしてアイコンタクトをするが、しかし!!
「朱音さんって昔先輩と付き合っていたんですか?」
俺の必死のアイコンタクトは星川に無視されてしまった。
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