66話 部屋決めに命をかけろ


 アカオハーブを出て、その後も起雲閣、MOA美術館などの観光地を行き、俺達は熱海をさらに満喫した。


「色々行って楽しかったね!」


 ホテルへ向かうバスの中で香乃が話しかけてきた。


「ああ、そうだな」


「そう言えば、今日泊まる宿ってどんな所なんですか?」


「なんか京也くん曰く、めちゃくちゃ人気があるホテルらしいよ。それに温泉もあるみたい」


「温泉……!」


 西園寺さんの言葉に反応する姫咲さん。

 この人、温泉好きなんだな。


「あ、ここですよね、降りましょう」


 バスを降り、ホテルの前に立つ。

 目の前にビーチが広がる大きなホテル。見るからに高そうだ。どちらの意味でも。


「すごいね! ゆうくん」


「夕食はバイキングみたい……」


「ほんとですか。私もうお腹ぺこぺこです。早くチェックインを済ませていきましょう」


 と言う朱音先輩。

 まだ夕方の6時とは言えど確かにお腹が空いた。

 お昼はそんなに食べてなかったしな。

 よし夜は沢山食べるぞーー。


 ホテルに入りチェックインを済ます。

 代表として、俺が宿泊券を3枚提示し、ホテルマンからルームキーを3部屋分もらった。


「ルームキーもらってきたぞー」


 ロビーで待っていた5人に声をかける。


「もうクタクタだよ〜〜早く部屋に入ろう」


「そうだな香乃。今ルームキー渡すわ……ってちょっと待って」


 ここで俺はある事に気づく。


「どうしたの……?」


「何ぐずぐずしてるんですか? 先輩」


 姫咲さんと星川が俺の顔を覗き込む。


「いや、その部屋割りって決まってるの……?」


「「「「「え?」」」」」


 みんな頭上にハテナを浮かべてお互いの顔を見合わせた。


「うーん。全然何も考えてなかったね……でもまあ、みんな疲れているみたいだし私がパパッと決めちゃうね、701号室は香乃と湊ちゃん、702号室は那奈さんと朱音さん、そして703号室は私とゆうくん!」


「いや、待ってくださいよ!」


「意義あり!」


 西園寺さんの部屋割りに異論を唱える星川と香乃。


「なんでエレナさんと先輩が同じ部屋なんですか!」


「そうだよ! ここはゆうちゃんの幼馴染みでもある私が同じ部屋でしょ!」


「それも納得できません。ここはバイトで一緒にいる時間も長い私が適任です!」


「いや、湊ちゃんと一緒の部屋じゃゆうくん、犯罪者になるよ」


「うんうん! ゆうちゃんがポルノで捕まる!」


 俺のことなんだと思ってんだよ。こいつら……。てかポルノって意味合い違うだろ。


「ふふ、楽しそうですね」


「え、ええ」


 俺の取り合いをする3人を微笑ましく見る朱音先輩と姫咲さん。この2人の大人っぽさを分けてやりたい。


「くっ……これじゃあ埒があかない……それなら先輩に決めてもらうってのはどうです?」


 星川の提案に2人は……、


「望む所よ!」


「ガッテン!」


 乗り気だった。


「では先輩!」


「ゆうくん!」


「ゆうちゃん!」


「「「今日誰と泊まりたいの??」」」


 言い迫る3人。

 言い方に含みがあるな……。

 しかし困った。俺も部屋割りに関しては特に考えていなかったからな。

 西園寺さんを選ぶ……初めて会った日に泊まってるし、別に気をつかう必要はないだろうが……。


 ふとチュッチュしたことを思い出す。


 いやダメだ! 俺の中のよくわからない心が湧き出る可能性が微粒子レベルに存在している。


 じゃあ香乃……? 幼馴染みだし、気にする必要はないが……。


 軟禁プレイしたことを思い出す。


 ダメだ! 今は大丈夫だが、二人きりになった途端、またあいつの奥底に眠るヤンデレ属性が復活するかもしれない。

 

 星川か……? 

 いや、流石に青少年健全育成条例が黙ってないな。


 関係ないけど朱音先輩とか……?

 

 うーん……これに関しては少し俺の心の準備が足りない。

 よって……。


「ひ、姫咲さん?」


「え……?」


 突然自分の名前が出て驚く姫咲さん。


「えー! なんで那奈さんなの!? ハッ! もしかして、ゆうちゃん!」


 西園寺さんが何かに気づき、姫咲さんを見る。それに続いて、星川と香乃も見る。


「え、ちょ……」


 突然見つめられて赤面する姫咲さん。


「胸……か」


「は〜〜!?」


「ゆうちゃんのおっぱいすけべ! 胸がデカければいいのか!」


「最低です」


 一瞬で謎の誤解が生まれた。


「わーーお。ゆーくん相変わらずエッチだね」


 朱音先輩も便乗する。


 胸を隠しさらに顔が真っ赤になる姫咲さん。


「そ、そうなの……神原くん?」


とうとう姫咲さんにまで疑われる。


「ち、ちがいますよ! みんなが幸せになる選択をしただけです! 西園寺さん、香乃、星川を選んだら絶対この三人で喧嘩するし、朱音先輩は……」


「ん?」


 ニコッと俺の顔を見る。

 思わずドキッとしてしまった。


「朱音先輩は……あれだし……ということで姫咲さんを選んだの! その方がみんな幸せでしょ! まあ、姫咲さんが嫌じゃなければですけど」


「わ、私は……別に」


 前髪をいじりながら恥ずかしそうに答える姫咲さん。

 あーー萌だわ……

 やはり俺の選択は間違いじゃなかっ——。


「みんなじゃなくてゆうくんでしょ。もう話し合いじゃあ埒が開かないし原始的な方法で決めましょう」


「そらなら平等にグーチョキパーで決めません?」


「うん! 大賛成!!」

 

 自分が選ばれないとわかった瞬間、結束した三人。

 クソォ。なんだこいつら……。


「もう、なんでもいいから早く決めようぜ」


「よし! それなら恨みっこなしでいくよー!」


 高級ホテルのロビーで男女6人がグーチョキパーで部屋決めをする。

 なんか側から見ると笑えるなこれ。


 グー!

 

 チョキ!


 パー!


 こうして部屋割りがようやく決まった。



 

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