65話 写真は信用するな

 俺が醸し出した寒い空気を抜け出すかのように俺達はカフェを出て、庭園を楽しんでいた。


「皆さん! 皆さん! 次はこっちで写真撮りましょう!!」


 自撮り棒片手にみんなを連れ回す星川。

 バイトの時と比べてものすごく生き生きしている。若いっていいな。

 写真を撮っているみんなを俺は少し離れた位置から見ていた。

 

「次はみんなでポーズ決めて撮りましょう! あ、先輩もほら、来て下さいーー! せっかくですし、撮りましょうよ〜〜」


 俺を誘い、みんなで写真を撮ろうとする。

 しかし。


「いや、俺はいいよ」


 断った。

 昔から写真というのは好きじゃなかった。

 写真写りも良くない方だったし、毎回目を瞑るし、何より……何より……だ。


 俺は女の子の間に入るのが何より嫌だった。


 百合を嗜む紳士として、やはり女の子と女の子の間に割り込み、写真を撮るなど愚の骨頂。

 みんなが楽しそうに写真を撮り、たまにちょっとピタッとくっついた感じではしゃいでるでのを側から見るだけで俺は満足。

 

 

 そこに男という醜い生き物は不要なのだ。

 故に百合の間に挟む男にはならない。

 

 ま、好きな声優や好きなキャラのパネルと撮るなら話は変わるけど。


「えーー! ゆうちゃん! せっかくだしみんなで撮ろうよーー!」


「そうだよーー! さっきみんなで引いたのまだ根に持ってるの?」


 先程の"ア○ギ"のモノマネをぶり返す西園寺さん。ちくしょう、バカにしちゃって。


「あれは気にしてないよ。てか、本当に俺のこと気にしなくていいからさ」


 変に浮かれてると思われたくないしな……。

 そう思いながらスマホを構おうとすると、朱音先輩がひょこっと現れて、


「行こ」


「え……?」


 俺の手を引き、みんなの元へと連れてかれた。


「待って先輩、俺は別に」


「いいから、いいから」


 笑顔で俺を引っ張る朱音先輩。

 その楽しそうな表情見て、俺は自然と体の力を抜いた。


「よし、それじゃあ撮りますよ」


 本当に写真は嫌だった……でも……。

 

「私、ゆうちゃんの隣!」


「あ、香乃ずるい!! なら私はゆうくんの左の隣!」


「那奈さん、私達はしゃがんで撮りましょう」


「うん……」


「それじゃあ、タイマー回します!」


 少し離れたところにスマホを置き、星川が走ってくる。


「よっと! なら私はここで!」


 俺の背後に立ち、抱きつき、顔を前に出す。


「お、おい」


「あ、そろそろシャッターが押されますよ。カメラ見てください」


「あ、ああ」


 カシャ

 

 RPGっぽい洋風な庭園をバッグに俺を中心にして写真を撮った。


 まあ一枚くらいなら思い出としていいか……。


 いつかまた振り返る為にも……。


 そう思うと写真もたまにはいいものだな。


「よし、撮れたね! LINEのグループに送っておきますね」


 送られた写真を見て俺は唖然とする。


「な、なんじゃこりゃーー!」


「ん、どうしたの……松原くん」


 近くにいた姫咲さんが声をかけた。


「いや、どうしたもこうしたもないっすよ。さっき送られた写真見てください」


「え……?」


 そう言い写真を確認する。

 すると


「ぷっ……」


 姫咲さんが写真を見て吹き出す。


「こ、これ……すごいね……」


「すごいというより、もう俺じゃないですよ!!」


 俺達のやりとりを聞いてみんな写真を見始める。


「ふふ……湊ちゃん、これは……流石に……ふふ」


 必死に笑いを堪える西園寺さん。


「ハハハハ!! 誰これ!! ハハハハハハ!!」


 笑いを堪える気がない香乃。


「ぷっふふ……ゆーくんって盛るとこんな感じになるんだね……面白い。やるね、湊ちゃん」


「でしょ! 朱音さん! 冴えない先輩をかっこよくするの大変だったんですからね! まあでも、私の手にかかればこんなもんですよ」


 まるで一仕事終えた職人のようなことを言う星川。

具体的にどうなっているかというと———。


 テレーテレーテレーレレレレ〜〜


 Before

 仕事と人間関係に疲れ果ててまるで死んだ魚のように垂れ下がっていた瞳が……。


 After

 なんということでしょう。

 ぱっちり二重に様変わり。まるで万華鏡写○眼が開眼したかのように、瞳孔が開き、闇を見ております。


 Before

 暴食、夜更かし、スマホ依存。

 乱れた生活習慣によってできた顔の肌荒れニキビは……。


 After

 なんということでしょう。

 フィルター一つで真っ白お肌に様変わり。

 今にもチクショウーー! と言わんばかりの白い肌で艶々です。


 Before

 最後に、スマホのレンズから見ても溢れ出る黒いオタクオーラは……。


 After

 なんというのでしょう。

 JKの指先一つでキラキラ模様へと変化。

 まるで元が陰キャだとは思えないほど、光輝いております。

 

「どうです?」


 ドヤ顔で俺を見る、星川。それに対し俺は、引き攣った笑顔で、


「あ、ありがとう」


 と言った。


 ごめん。やっぱり写真嫌いだわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る