64話 神域のオタク
朱音先輩の問いかけに場が固まった。
普通の男性ならこの問い、とても気になる所だが、この三次元より二次元で、リアルでどんな美人に言い寄られても二次元を貫く……のちに『神域のオタク』と呼ばれるであろう俺にとってはむしろ気まずかった。
というかあまり面と向かって聞きたくなかったので俺はいつもの如くアプリ"アイドルシスターズ"を開き、ほのかちゃんの育成を始めた。
「私はゆうちゃんの優しい所かな!」
まず初めに口を開いたのは香乃だった。
「私の両親共働きでいつも帰りが遅かったんだけど、でもゆうちゃんはいつも一緒に居てくれたの。いつも私のそばに居てくれたの。そんな優しいゆうちゃんが今も大好き」
……きたぜ……真っ直ぐと。
こう意気揚々と言われたら誰であろうと言われた側は恥ずかしくなる。
まあしかし。しかしだ。ここで狼狽えるほど俺はピュアではない。
真顔でアイシスを続けた。
「ふーん。幼馴染み……いいね」
朱音先輩が意味深に呟く。
すると次に、
「湊ちゃんは?」
星川に矢を向ける。
突然、話を振られて慌てる星川。
そういえば、星川が俺にあそこまで惚れている理由は知らないな。
耳を少し会話に傾けた。
「え、あ、わ、私は別に先輩のことなんて都合の良い男ぐらいしか思ってないですよ。恋愛感情なんて別に……」
と言いながら、お前この前みんなの前で堂々と俺のことが好きだと告白しただろ。
そう俺が言ったらきっと本気で殴られるからやめておこう。
「と言いながら、湊ちゃん。この前"ゆーくんに告白してたじゃん」
西園寺さんがからかうと星川は一気に顔を赤くする。
「あ、あれは、みんなと先輩の仲を引き剥がす為で……」
いやいやあの告白はガチだったって、童貞の俺でもわかる。このままそれで押し通すのは無理な気がする。
誰も信じていない雰囲気に星川はとうとう本音を口にする。
「あーもう! そうですよ! 先輩のことは好きですよ! もちろん異性として!」
ヤケクソのように言った。
「それで、どこに惚れたの?」
ぐいぐい星川に聞く朱音先輩。
女子会じゃあるまいし……。
「えーと……それは秘密です」
「どうして?」
「どうしてもです! はい次那奈さん!」
無理矢理自分の話を終わりにして姫咲さんに振った。
「え……! わ、私は別に……」
顔を上げるとつい姫咲さんと目があってしまった。
無心で見つめ合うと突然、姫咲さんは顔を赤くし、伏せた。
「那奈さんはゆーくんのこと好きじゃないの?」
姫咲さんの反応を見てからかうように言う朱音先輩。
「そう言うわけではないですけど……私は……あくまで趣味が合うから……って感じで……」
モゴモゴと話す。
なんでこんな曖昧な感じで話すんだろう。
はっきり言えば助かるのに……。
お、ほのかちゃんピックアップ来てる!
引こう。
俺は再びアプリに目をやった。
「ふふ、そうなんだね」
「あれでも那奈さん、先輩とホテル街歩いてましたよね! あれなんだったんですか?」
「「え!!」」
同じタイミングで声を出した。
「それって……」
「どう言うことかなゆうくん?」
香乃と西園寺さんの顔つきが変わった。
やばい、やばい。修羅場になって来た。
「あ、あれは……たまたま……偶然入ろうという流れになっただけで」
「え、入ったのーー!!!」
香乃が大声で言う。
姫咲さん……墓穴を自分で掘ってどうする……。
「どう言うことなの、ゆうくん!!」
西園寺さんが言い迫る。
でもまあ、別にやましいことは何一つしてないし。まあトラブルはあったが。
俺は正直にことの顛末を話した。
「なるほど……そういうことね」
「なーんだ! 私てっきりやったのかと思ったよ!」
もっとオブラートに包めよ香乃!
「うん……だから、私と神原くんはみんなが思うような関係では……あ……」
急に言葉を詰まらせる。どうしたんだろう。
「あ……」
先日の夜のことを思い出し、俺達は顔を真っ赤にした。
あれは恐らく何ががあったしな。この旅行中隙間見て聞いてみよう。
「じゃあ最後にエレナちゃん」
朱音先輩が西園寺さんに尋ねる。
すると西園寺さんはドヤ顔で、
「全部!!」
そう答えた。
「私はゆうくんの全てを受け止められるわ! ゆうくんの優しさ、素直さ、そして気持ち悪い趣味までもね!」
何言ってんだこの人……。
あ、一回目のガチャ出なかったか。
よし! 倍プッシュだ!
「全部ってすごいね」
「私だって!!!」
「わ、私も。ただ気持ち悪い趣味はちょっと……」
西園寺さんの発言に火をつく香乃と星川。
こんなオタクを取り合って何が楽しいだか。
「本当にモテモテだね。それに対してゆーくんは何を思ってるのかな?」
最後に俺へと話を振った。
それに対し俺はアイシスの10連ガチャを回しながら答えた。
「くくく……美人読者モデル、幼馴染み、可愛い後輩……そんな女性……が惚れたとしても、ねじ曲げられねえんだ………! 自分の推しと………ガチャの排出率はよぉ……!」
「「「「「は?」」」」」
全員が口にし、その後数分の無言が続いた。
さらに倍プッシュしたが、ほのかちゃんは引けなかった……。
辛い……悲劇の沙汰ほど……辛い……。
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