63話 大抵のことはオギャーと言っておけば何とかなる。

 秘宝館……それはエロの博物館といっても過言ではないだろう。

 歴代の春画や大人の玩具が展示されている。そこに俺はどうしても行きたかった。

 いや、行かなければならなかった!!


 エロを嗜む一人の紳士として!


 是が非でも!!


 ………………


「着いた……意外と近かったね」


「はい、私ここめちゃくちゃ行きたかったんですよ! みんなで写真撮りましょうね!」


「モデルの仕事で一回だけ行ったことあるんだ。結構すごいよ」


「へーー! なんだかワクワクするね!」


 

 アカオハーブ&ローズガーデン!


「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁーー!!」


 庭園のゲート前で俺は嘆いた。


「流石にこのメンバーで秘宝館はちょっと……」


 西園寺さんが俺に向かって言う。


「ごめんね、神原くん……私もあそこはあまり……」


「ねぇ、皆さん、そんな先輩なんて、置いて早く行きましょうー!」


 ここに来てやけにテンションが高い星川。

 それもそのはず、ここはインスタの聖地と言われている。

 20万坪もある大きな庭園の中には至る所に綺麗な草花が生えている。まさに花の楽園だ。

 熱海にくる女性観光客は必ずと言っていいほど、ここに立ち寄り写真を撮っている。

 まあインスタという文化を知らない俺にとっては似合わない場所だぜ。


「ちくしょう……」


「まあまあ、ゆーくん、私達も行こう」


 秘宝館を却下され悲しみに暮れている俺を朱音先輩が慰める。

 そう言えば、朱音先輩、花とか好きだったな。


 入り口からさらにバスに乗り庭園の奥へと向かう。

 

「うわーーー!! すごーーい!」


 本日何回目かのすごいを言う香乃。

 しかし、俺ですら思わず言葉を出してしまうほど、綺麗な庭園と、海の景色だった。

 熱海城もそうだったが、熱海はどこ行っても海が綺麗だ。


「あ、カフェあるここで少しお茶してかない?」


「うん……」


「はい!」


「大賛成!!」


「いいよ」


「一向にかまわんッッ!」


 西園寺さんの提案により、庭園の中にあるカフェで休むことにした。

 にしても異様だ……まわりはカップルや女同士でのグループが多いのに対し、俺達は女性5人に男1人……浮いていると感じているのは自意識のせいだろうか。


「そう言えば、朱音さんってお仕事は何をしてるんですか?」


 星川が朱音先輩に質問する。

 そう言えばそれは俺も気になっていた。


「保育士だよ」


 保育士か。そう言えば大学の頃から言っていたような気がする。


「へーーすごいですね! 子供お好きなんですか?」


「うん。香乃ちゃんみたいにみんな素直で可愛いから」


「え、そうですか。へへ」


 照れる香乃。

 これ意味合いによってはお前が子供っぽいってことだからな。


「子供を宥めるコツとかあるの……?」


「ありますよ」


 姫咲さんの問いに朱音先輩が即答する。


「へぇーどんな感じなんですか?」


 西園寺さんが聞くと、朱音先輩は俺の方を向き、


「ゆーくん、子供になって」


「え?」


「いいから」


 朱音先輩がニコッと微笑み、俺は仕方なく子供役をやる。


「オギャーーーーーー!」


 俺の産声が店内に響き渡る。


「先輩、それ子供というより赤ちゃんじゃん」


 星川の冷静なツッコミを無視し、俺は演技を続ける。


「オギャーーー! ゲーミングPCとゲーミングチェアが欲しい! オギャーーーー!」


「これ何歳児設定なの……」


 引き気味の西園寺さん。しかし、朱音先輩はそんな俺に対し、優しく微笑み、そして——。


「指導」


 そう言いおでこにデコピンをした。


「痛っ!!」


 デコピンの威力は思ったよりも強かった。


「こうすれば大抵のチビちゃんは言うこと聞いてくれる」


「へ、へー……」


 力技やん……。

 意外な保育方法に姫咲さんは驚きを隠せずにいた。


 しかし、子供からしてみれば優しそうな先生がいきなり、笑顔でデコピンしてきたら、絵も言えない恐怖を味わうだろう。自身の雰囲気を計算に入れてやっているなら少し怖い。


「あ、私からもみんなに聞きたいことがあった」


「なんですか?」


 西園寺さんが首を傾げると朱音先輩が笑みを崩さないまま皆に尋ねた。


「みんなゆーくんのどこに惚れたの?」


「うぶっーー!」


 俺は思わず飲んでいた飲み物を吹き出した。

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