60話 ピーキーな女には気をつけろ!
「ふふ、久しぶりだね……ゆーくん」
「朱音先輩……まさかAKIRIって、あ……」
この人の本名は"霧宮 朱音"だったよな。そこから取ったのか。にしても京也の野郎! 俺にピッタリの人ってそういうことかよ!
ちくしょう! なんかまんまと罠にハマった気がする。
「卒業しても何も変わってないね」
動揺している俺の顔を見て、朱音先輩は微笑む。
変わってないのは朱音先輩の方だった。初めて会った時からこの人の見た目は何一つ変わっていない。俺の一つ上だから26? くらいのはずなのにそこらの女子大生と比べても何ら遜色ないだろう。
「朱音先輩こそ……って……」
少し目を逸らした瞬間、姿を眩ませた。
一体どこへ……?
「ゆーくん、ゆーくんお土産屋さん特有の何の縁もゆかりもない人気アニメグッズが売ってるよーー」
振り向くと朱音先輩は近くのお土産屋さんに入っていた。
こういうマイペースっぽいところも相変わらずだ。
「朱音先輩、来て下さい。みんな待ってますよ。あれ? そう言えば朱音先輩、バイクで来たって言ってましたよね。バイクはどうしたんですか?」
「うん、えーとその辺で停めたよ」
「その辺ってどこですか?」
「うーん……」
数秒唸ると朱音先輩は満面の笑みを浮かべた。
「忘れちゃった」
「えぇ……」
マジかよ……。
バイクを探す為平和通りを二人で歩く。
「本当にどこに停めたのか覚えてないんですか?」
「うーんとね。なんか良い匂いがして、それに釣られて降りたのは覚えているの」
本能のままか!
「それってどんな匂いですか?」
「うーんと、プリンかな……」
「プリンね。わかりましたよ」
近くのプリン屋さんを探す。バイクだからすぐ見つかるだろう。
「ゆーくん、私に優しいのも相変わらずだね」
二人で歩いていると突然、朱音先輩が俺に向かってそう言った。
「まあ優男ですから!」
少し照れながら答えた。
「ふふ、やっぱり相変わらずだね」
「相変わらずって?」
「他の人と少しズレてる」
あなたに言われたくない!
「はは、そうすかね……割と自分は普通だと思うんすけどね……」
「普通じゃないと思うけどな。あ、なんか大学の頃もこのやりとりしなかったっけ?」
「え、そうでしたっけ?」
「ゆーくん、忘れっぽいね」
あなたに言われたくはない!
「流石に何年も前の会話は覚えてないっすよ」
「そう……?」
急に朱音先輩が立ち止まる。それに合わせて俺も足を止めた。
「私は今でもはっきり覚えてるよ。ゆーくんとの日々を……」
「え……」
恥じらいもなく彼女は真っ直ぐ俺に向かって言った。
俺は思わず卑しいと感じてしまった。
昔からそうだ……この人は無意識に俺の心をおちょくる。
本当に俺の気持ちとかを何も考えずに……。
「てか、朱音先輩、バイク乗れたんスね。意外です」
話題を変えて、うまくはぐらかした。
「バイクに乗ると風が気持ちいいからね。それにカスタマイズとか色々いじったりするの楽しい!」
割とガチのバイク女なのか。
この大人しそうな見た目からは想像できないな。
「へーー。かっこよくていいですね。俺もバイク乗ってみたいなーー。ライディングデュエル、アクセラレーション! とか乗って行ってみたいなーー」
「乗りたいの? ゆーくん。 でもあれ、私用に改良したバイクだし、ピーキー過ぎてゆーくんには無理だよ」
「ピーキー過ぎるって、そんなすごく改造したんですか……って、もしかしてあれですか?」
視線の先には、ピンク色のいかした大型二輪が堂々と歩道に停められていた。
あんなごついの先輩乗りましているのか。
外国人観光客が普通に写真撮っちゃってるじゃん。
「あー、あったあった。よかった」
「あんなところ停めてたら、怒られますよ! 警察来る前に早く、駅の方へ戻りましょう!」
俺は朱音先輩を無理矢理バイクに乗せて、足湯の所まで来るよう促した。
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