51話 俺の幼馴染みがこんなヤンデレなわけがない


「う、う……」


 目が開けると見知らぬ天井が広がっていた。  

 あれ? 俺なんでこんな知らない部屋のベッドで寝ているのだろう。それになんか気分が悪い……。

 意識が朦朧としている中、体を起き上がろうとしたが、


「な、なんだこれ……!!」


 動かない。

 自分の体を見ると長いゴムベルトでギチギチにベッドと共に拘束されていた。 

 

「ど、どう言うことだよ! まさか!!」


 この状況についての一つの可能性が頭をよぎった。


「ここは! SMクラブだと言うのか!」


SMプレイ……全く興味がないし、特に性欲に刺さるわけでもない。俺にとっては無縁の場所だと思ったが、絶対にしないという確信があったわけでもない。

 男にはあるんだ。自分が普段踏み込まない未開域に恐る恐る踏み込む時が!

 そしてそれは普段感じているモノ以上に無性に興奮する!!

 己すら知らなかった性癖が開かれる瞬間は新たな世界が現れるような創生的感情に包まれる!

 その感情に支配されて、きっと俺はここにいる。

 どうやら、俺はSMプレイに目覚めてしまったらしいな……。

 

「あ、起きた?」


女性の声がした。

 この状況的に俺は受けなんだろう。よくは覚えないが、ここはマゾっぽいセリフを言った方が礼儀なのだろうか。

 よ、よし!!


「こ、このみすぼらしい豚に! お仕置きをお願いいたします!!」


 そう思い切って言うと、SM嬢(?)が俺の前に顔を出す。

 それを見てお互い、ギョッとする。


「え?」


「ブヒッ?」


 SM嬢ではなく、香乃だった。


……………………



「いやーー。驚いた、この状況だから俺てっきりSMの風俗店だと思ったよ〜」


「もう、ゆうちゃんは相変わらずエッチだな〜〜私の部屋が風俗店なわけないじゃん〜〜」


「だよな!!」


 お互い笑い合う。緊張が解けたかのように。しかし、俺だけはまだこの状況に違和感を覚えていた。


「ところでさ……」


「ん?」


「なんで俺拘束されてんの?」


 拘束されたままの自分の体を見て言う。

 だんだん意識がちゃんとしてきて思い出してきた。

 確か香乃をほのかちゃんっぽくして、ベンチに座っていたらいきなりキスされてそれでそこから眠たくなって……。

 頭を整理しているともうほのかちゃんではなくなっている香乃は俺が寝ているベッドに座りながら笑みを浮かべて告げる。


「そんなの決まってるじゃん……ゆうちゃんをもうどこにも行かせないためだよ」


「え? うわっ!」


 いきなり香乃が抱きついてくる。


「ようやく……本当の二人きりになれたね」


「は……?」


「もう、どこにも行かせない……ずっと、一緒だよ……」


「お前さっきから一体、何を言ってんだよ! そんなヤンデレみたいなことを!」


「ずっと寂しかったんだよ」


「は?」


 抱きつきながら香乃は甘えるような声で話し始める。


「私は昔からゆうちゃんのことがすごい好きだったのに、ゆうちゃんは全然私に振り向いてくれなかった。だけど、ゆうちゃんと一緒に居られればそれでいいと思ってた。ゆうちゃんが私のこと、その……異性として見てなくても、隣にいるだけで幸せだった。でも、高校卒業してゆうちゃんは私のもとから去っていった。追いかけたかったけど、わたしには無理だった……それで手紙を書いて繋がりを無くさないようにした。それなのに、ゆうちゃんは全然手紙を返してくれなかった。もう私のことなんとも思ってない、好きな人ができたんだと思った……」


「香乃……」


 なんだが全面的に俺が悪いなこれ。

 手紙の件は本当に悪いと思っている。

 にしても……。


「そう思うとなんだが心がモヤモヤして、イライラして!! 気づいたら、ここまできていた……ゆうちゃんに会うため! ゆうちゃんを自分のものにするため!! もう誰にも渡さないよ! エレナちゃんにも! 後輩ちゃんにも! 誰にも!!」


 ヤンデレ度が半端ない。

 もうこれ拗らせているレベルじゃねぇーぞ!


「ゆうちゃんはここでずっと私と暮らすの」


 香乃は俺の顔を自分の胸に埋める。

 腕も拘束されている俺はされるがままだった。


「お仕事とか生活とかそんなこと、何も考えなくていいよ。私が全部なんとかするから……」


 香乃のおっぱいに包まれながら甘い言葉を浴びる。

 しかし、俺は恐怖と申し訳なさに押しつぶされていた。


 俺がこのモンスターを生み出したのか。

 俺のデリカシーと空気の読めなさがこのヤンデレモンスターを生み出したのか……。

 狂気に感じる。そして、そんなモンスターに自分の好きなキャラのコスプレさせた俺自身も狂気に感じた。


 すまない……すまない香乃……。


 香乃をこんなにしたのは俺だ。

 だからこそ、香乃を戻せるのも俺しかいない!


 俺は拳を強く握って決意する。


 救わなきゃよぉ。是が非でも!!


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