50話 俺の幼馴染みがこんなに可愛いわけがない
なんか勢いで香乃をほのかちゃんっぽくしたのだが……。
「ん?」
今の香乃を見て思わず自分の顔を伏せた。
すごく可愛いすぎるだろ……!!
まるでほのかちゃんが現実世界に来たようだ。
まさかここまでクオリティーが高くなるとは思わなかった。でも今思えば香乃の顔はどことなくほのかちゃんに似ていた気がするし、元となる素材が良かったのかもしれない。
「どこ行きます?」
「え、あ、えーと……」
完全に成り切ってやがるな香乃の奴。
ファミレスで1時間ほどほのかちゃんのボイスを聞かせた甲斐があった。
そのおかげでさっきから心のドキドキが止まらないぜ。
それに……。
握られている手をチロっと見る。
「あ、嫌……ですか?」
「あ、いや……別に……」
「そ、よかった……」
待て待て待て待て!
可愛すぎるだろぉぉぉぉぉ!
何だ、これ本当に香乃か?
もう完全ほのかちゃんだろ、これ!
さっきの"よかった"というセリフも全部脳内再生が余裕だったんだが!!
「ふー……」
一度深呼吸をする。
と、とりあえずおちつけ……どんなに見た目が変わったとしても中身はあの香乃だ。俺の幼馴染みである香乃だ! 本物ではない! しかし本物に近いのは事実! このチャンスは逃すわけにはいかない!
「お、俺、行きたい場所あるんだけどいいかな?」
「うん! お兄ちゃんが行きたい所、私も行きたいです!」
「うっ!」
あまりの可愛さに吐血しそうになった。
一言、一言の破壊力がやべぇ! このままデート始めたら俺死ぬんじゃないかな。いやむしろ! 死んでもいい!!
覚悟を決めて俺達は秋葉原を出て、代々木公園へと向かった。
時刻は15時頃をまわっていた。
代々木公園にはランニングをしている人や散歩している親子が多くいた。
さて、なぜ俺がほのかちゃんとのデートスポットにここをチョイスしたのかと言うと、アイシスのほのかちゃんイベントの舞台にもなっている場所だったからだ。
シナリオは、ほのかちゃんの初デートというもの。ほのかちゃんの趣味は散歩だからな。ここでお兄ちゃん(アイシスプレイヤーの総称)と初々しいデートを繰り広げるんだよなぁーー。今の状況と見事に似ている。
「風が気持ちいいですね」
「あ、うん。そうだね」
雰囲気に合わせて俺は普段より渋めの声を出した。
二人で代々木公園の並木道をゆったりと歩く。お互いの体温を感じなら———。
あ、やばい俺今死んでも後悔ねぇーや。
この青い時間が永遠に続けばいいと切に願っていた。
「あ、あそこのベンチに座ろうか」
「はい、お兄ちゃん」
池が見えるベンチに俺達は腰掛けた。
少し黙り込む。
やべぇーこのシチュエーション。中学男子がもし授業中テロリストが襲ってきたらどう行動するか考えるのと同じくらい何度も想像したのに! ここで投げかける会話が思いつかねぇー!
『景色がいいね。でもほのかの方が綺麗だよ』
いやいやキメェー! もっとナチュラルな感じで。
『自然の力を感じるなーー』
ナチュラルってそっちの意味じゃねぇ……。もっとフレンドリーな感じで。
『昨日、コンビニでドカ食いしたから今朝うんこめっちゃ出たわwww』
フレンドリー過ぎるだろ! てかフレンドリーでも引くほど馬鹿みたいなセリフになってる!
クソォ……なんて会話を振ればいいんだ。
俺が悩んでいるとほのか(香乃)の方から言葉が出た。
「ねぇ、お兄ちゃん、覚えてますか?」
「え?」
「昔もこうして二人で手を繋ぎながら色んな所に行ってましたよね」
あれ? そんなイベントあったかな?
「あ、ああ。そうだな」
話を合わせようと適当に相槌をうった。
「私、お兄ちゃんにすごく救われていたんだ」
「え?」
ニコッと笑みを浮かべて香乃は語り出す。
「私、幼い頃はずっと一人だった。両親は共働きだったし、私自身、幼い頃、人見知りだったせいか保育園で女の子の友達もできなかった。正直寂しかった。なんで私ばかりひとりぼっちなんだろうって。だけど、そんな私のそばにお兄ちゃんだけはいつも一緒にいてくれた」
「ん?」
待てこれって……。
「寂しい夜も悲しい夜もお兄ちゃんだけが私のそばにいてくれたの……いつもよくわからないこと言ったり、おかしなことばかりしてたけど、それでも私はそんなお兄ちゃんといるのが楽しかった。ずっとそばにいたいと思った! お兄ちゃんは私のことそれほど想ってないのかもしれないけど、私は幼い頃からずっと……ずっと! ハァ……ハァ……」
徐々に言葉に感情が入っていく。
これはほのかちゃんではなく香乃自身の言葉だ。
香乃……それほどにまで俺のことを……。
「大丈夫か……?」
俺が心配そうに顔を覗くと、
「大丈夫……」
そう言い香乃はバッグから薬を取り出し口に入れる。
「香乃……お前どうしたんだよ、急に。どこか悪いのか?」
そう問いかけた瞬間———。
「やっと私の名前を呼んでくれたね」
「え———っん!!」
香乃の唇が俺の唇に当たった。
いや当たったというよりは当たりに来た。
また西園寺さんの時のように体が硬直する。
しかし、西園寺さんの時のようなソフトな感じではなく思いっきり口を重ねるようなディープな感じな接吻だった。
なんで……こんな!
さらにその瞬間、口に何か入るような感覚を味わう。
それが俺の喉を渡って体の中へと落ちていく。
香乃の口から何か入れられた!?
「や、やめろ!」
思わず力づくで香乃を剥がした。
「お前! 急に……な……にを……?」
あれ? なんだこれ?
意識が遠のいていく……。なんで急に……。
体全体の力が抜けて俺は香乃に倒れかかった。
そして———。
「おやすみ、ゆうちゃん」
香乃のこの言葉を最後に俺は完全に意識を失った。
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