49話 俺の幼馴染みがこんな推しに似ているわけがない

 正直な話。


 俺はコスプレがあまり好きではない。


 というのも俺は二次元は二次元、三次元は三次元と割り切って考えているので、それが交わるコスプレという文化には抵抗があった。

 別に自分の好きなキャラじゃないコスプレはなんとも思わないんだが、自分の好きなキャラのコスプレを見ると何だか心がギスギスする。

 低クオリティーなら尚更。

 

 あとそれと付随して俺は"実写"というものも好きじゃない。というか嫌いである。


 なんで二次元をわざわざ三次元で再現しようとする?

 漫画やアニメというものはそもそも、現実では起こり得ないことや空想を絵や映像に落とし込めて、我々に現実では体験できないような興奮や感動を与えてくれている。

 その二次元だからこその良さというものを殺して作られているのが実写だ。

 ※あくまで一オタクの意見です。


 その結果、実写の作品のほとんどがあまり評価されていない。

 評価されているものも出演した俳優の演技だったり、CG技術だったりとしているが、俺は実写が原作以上の評価を得ている作品を見たことがない!

 つまり、二次元を三次元に持ち込むのはナンセンス! 


 三次元リアルじゃ二次元フィクションを超えることはできない!!


 ……と少し脱線したが、つまり実写もコスプレも俺はあまり好きではないということ。

 それが好きな作品、好きなキャラなら尚更。


 それなのに……。


「ど、どうかな? 似合う?」


 ほのかちゃんのコスプレをした香乃が頬を赤らめてこちらを伺う。


「ど、どうかなって……」


 俺は唾をゴクリと飲み込んで香乃に言い放った。


「なってない! まるで!! まず成り切るなら髪型も合わせろ! 服を着ただけでコスプレした気になるな! あと化粧も少し濃い、ほのかちゃんは基本ナチュラルメイクだ! それにその衣装! ライブ衣装だけど、クオリティーが低い! "ド○キ"に売ってるコスプレ衣装と同じぐらいのクオリティーだぞ! 本当に再現するならほのかちゃんの私服だ! 彼女の私服は割とシンプルだからユ○クロとかで揃えられる! それと極め付けは言葉遣いだ! お前アイシスをしっかり履修したのか? ほのかちゃんは基本誰に対しても敬語を使うキャラだ! だから『ど、どうかな? 似合う?』じゃない!『どうです? 似合いますか?』だろ!! コスプレをするなら細部まで成りきれよ!!」


 俺の勢いに香乃は圧倒され、


「ご、ごめんなさい……」


 小さく謝る。


 当然だ。俺の推しを侮辱しているようなものだからな。

 よし、いい機会だ。俺が本当のほのかちゃんを香乃で再現してあげよう。


 俺の中の変なスイッチが入った。


「とりあえず、それ脱いでついてこい」


「え?」


 俺は香乃の手を引き、ほのかちゃんのカツラだけ買い、店を出た。

 その後、アキバにあるユ○クロに連れていき、服をチョイス。


「とにかく、この白のカットソーの下にピンクのロングスカート履いとけ」


「え、あ、うん」


 さらにファミレスで昼食を食べながら俺のスマホでアイシスのアプリを見せてほのかちゃんを履修させた。


「いいか、ほのかちゃんは兄に対しても敬語を使う。それに極度のブラコンだ!」


「ブラコン?」


「お兄ちゃん大好きということだ!」


「え、でも私お兄ちゃんなんていないよ」


「俺がお兄ちゃんになる!」


「え……わ、わかった」

 

 そして、かつらをはめてメイクを変えて、ついに……。


「どうです? 似合いますか? お兄ちゃん?」


 俺が認めるほのかちゃんのコスプレを完成させた。


「良きかな……」


 コスプレがあまり好きではなかった俺もこのクオリティーに思わず手を合わせて拝んだ。


「それじゃあ、デートの続きをしましょう。お兄ちゃん!」


「え、ああ」


 あれ、これちょっと待って。


 この状況ってまるで……。


「どうしました?」


 完全にキャラに成りきっている香乃を見て俺は心がドキッとする。

 この状況、まるで俺がほのかちゃんとデートしているみたいじゃないか!!


「ほら、何しているんですか」


「え、ちょ香乃———」


 手を引かれて進む。

 

 香乃……これ本当に香乃なのか?


 いや、もはやこいつはもう……!


 ほのかちゃんだ!!


 こうして俺とほのかちゃんのデートが始まった。

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