52話 俺の幼馴染みがこんなサイコパスのわけがない。
「ゆうちゃん……」
顔を近づける香乃。
このまま香乃の雰囲気に飲まれてはだめだ。こいつを救うにはまず、覚まさせなきゃ。こいつの中で恐らく、俺は相当美化されている。多分、今のこいつにとって俺は俳優の"佐○健"に見えるのだろう。思い出補完が強すぎるんだ。そのイカレた頭をまずは現実へと覚ます!
「香乃!!」
勢いよく名前を呼んだ。
すると香乃は固まった。
「どうしたの?」
「俺は!!」
言うしかない。
俺という人間がいかに、愚かで情けないのかを!!
「小学3年生の頃までオネショを何回かしていたんだ……」
「え……?」
言ってしまった……。今まで誰にも言ってこなかった自分の恥ずかしい過去を。
さらに俺は続けた。
「中学生の時! 近くの神社で肝試し大会した時あったよな。あの時、俺門限だって言って途中で帰ったけど。実は漏らしてた。途中、すごくトイレに行きたくなったけど、なかなか言い出せなくて、それで小便が漏れていたんだ!」
「ゆうちゃん?」
「高校生の修学旅行の行きのバス。本来、寄るはずのなかったサービスエリアに何故か寄ってたけど、あれ実は俺が原因なんだ。一番前の席に座っていたから気づかれなかったけど少し漏らしてたんだ、小便。早々に体操着に着替えたのも、そのせいだ」
あれ……?
「この前も! お前と西園寺さんと3人で飲んでた時、途中用事を思い出して帰ったけど、あの時もだ! 居酒屋のトイレ全然開かなくて緊急事態だったから、急いで店を出てトイレを探した! でも結局、漏らしちまった……」
なんだ……これは……。
香乃の目を覚まさせる為のカミングアウト……そのはずだった。
しかし……。
「……俺は……いつも……そうだった……結局、どんな時も間に合わない。タイミングが悪いんだ……。突然、尿意が襲ってくる時はいつもトイレのない閉鎖空間。あったとしても必ず誰か入っている……。まるでトイレの神様に見放されたような人生……。いつも……いつも……バッドタイミングなんだ……今だって……! 俺は……!!」
「ゆうちゃん……?」
「トイレに行きたいんだぁぁぁぁ!!」
口に出したことで俺がずっと抱えていた尿意が溢れ出した。
その俺の溢れ出た感情を前に香乃は無言で拘束していたベルトを解いた。
「え?」
「トイレ、行きたかったんでしょ? なら、はじめから言えばいいのに」
「え、あ、うん!」
勢いよくトイレへ走った。
…………………
「ふー間に合った……って……違う!!!」
便座に座りながら自分に対し突っ込んだ。
トイレに行きたいが為にあんな赤裸々なことをカミングアウトしたんじゃない!!
香乃の目を覚まさせる為だろ!
クソ! でもどうする? あんなドン引くエピソードを聞いても"トイレ行きたかったんでしょ?"の一言で片付けられたぞ! どんだけあいつの中の俺すごいんだよ! 4回漏らしたエピソード聞いてもなんの気持ちも変化もないぞ。一体どうすれば……いや、待てよ……! そもそもの根底が間違っているのかもしれない。そもそもあいつの中の俺は別に美化されていないのかもしれない。あいつの中の俺は俺そのものなのかも。だって別にあいつの前で猫被りやらカッコつけたことはない……となると……。
香乃は素の俺が好きなのか!?
いやいやいやいや。
素の俺っておしっこ漏らすオタクだぞ。そんな人間のこと好きになる女性なんて頭がイカれている。
ん?……頭がイカれている?
違法侵入、睡眠薬投与、監禁。
イカれていた!!!
となるとこの女……ガチだ! ガチのサイコな女だ。そう考えるとこんないかにもなキモ男を好きになってもおかしくない。だって常識が通じないもの。逆に気持ち悪い部分に惹かれているのかもしれない。
その線が濃厚だな。
だったら逆に裏をつけるかもしれない。
あいつの心に俺の認識を変えさせる。つまり今までの俺とは真逆のことをすればいい!
そうすれば、俺のイメージを変えさせることは可能だ。
今、香乃は紛れもないヤンデレと化している。ヤンデレというのは思い込みが激しい生き物。逆にその思い込みを利用すれば簡単に塗り替えられる!!
そうと決まれば! 早速! 実行だ!
この時だけ、俺は己を捨てて香乃と向き合う!!
覚悟を決めて、俺はトイレを出た。
「あ、遅かったね。さあ早くこっちに来て」
ベッドに横になりながら待っていた香乃に俺は勢いよく、ダイブした。
「キャッ! 急にどうしたの……?」
香乃を張り倒し、俺が香乃に覆い被さるという今までとは逆に構図になった。
「どうしたもこうしたもないぜ……!」
「ゆうちゃん?」
動揺する香乃に向かって俺は告げた。
「お、お待たせ、カーノジョ!!」
演じるしかない。
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