46話 おれの気持ち

「チュッチュ……俺……西園寺さんとチュッチュしてしまったのか……」


 家に着き、シャワーも浴びず俺はベッドに倒れた。


「された……されてしまった!!」


 顔をまくらに埋める。

 

 待て待て待て待て待て待て。

 何が起きた?

 どうしてこうなった?

 え、キスする展開あったか?

 確か、西園寺さんに縦セーラーの方が好きと言って、それでそれで……。


『ありがと——』


 無意識に唇を触っていた。

 

 まだあの時の感触が残っている。

 柔らかくて、ほのかにあったかいあの感覚……。

 これが……西園寺さんの……。

 

 目を瞑り、あの瞬間を思い出そうとする。

 だが。


「気持ち悪い!!!!」


 大声を出し、自我を取り戻す。


「うるさいぞーー!」


 姫咲さんとは違う隣の部屋に住むおっさんが壁を叩き注意してきた。


「すんませーん!!」


 一言謝り済ませる。

 

 というか、というか、ずるいだろ。あのシチュエーションとあの場面のチュッチュは!

 ちょっとギクシャクして、本心を言い合い仲直りしてからのキスとか……!!

 俺が好きな百合漫画の展開やギャルゲーと全く同じだ!


 こんなんもう……こんなんもう……!!


「反則だろォォォォォ!!!」


「何時だと思ってる! 時間考えろ!!」


「すんませーん!!」


 また怒られた。

 んなことはどうでもいい。

 どうしよう……なんか"ドキのムネムネ"が止まらない。


 ロマンティックが止まらない……!

 誰かにこのロマンティックをあげたい……!


 つーか今日なんて日だよ!

 

 姫咲さんと朝チュンからの夜、西園寺さんとチュッチュとか!

 ギャルゲーの主人公通り越してエロゲーの主人公だろ、これ!

 俺、節操なさすぎるだろ……とはいえど全部自分の意志じゃないのがまた恐ろしい。


 しかし、姫咲さんとの朝チュンは覚えてないから何も感じなかったが、西園寺さんはついさっき体験したこと!! 

 今はそのことばかり考える。

 まるで朝チュンは相当前の出来事に思える。


 もう頭の中が、西園寺さんでいっぱいだ!!


 もしかして……俺……西園寺さんのこと……。


「チュッチュで舞い上がるなぁぁぁ!!」


「いい加減にしろ!!」


「すんませーん!!」


 三度みたび怒られた。


 どうしよう……俺の気持ちは一旦置いておいて、多分俺、次西園寺さんに会った時、普通の対応できないぞ。

 思春期の男子中学生並みに意識するぞ!

 それじゃあ彼女の思う壺だ。

 こんな簡単に彼女に堕ちてはダメだ……!

 決めたじゃないか、あの夜!


  "このモテ期をくぐり抜き、そして理想の恋人というか運命の人というかほのかちゃんみたいな人と結ばれてみせる!"


 って。

 ここで揺らいでなんかいられない!

 なんとか、今日中にチュッチュのことを忘れなければ!!


「そう……なれば……」


 俺は電気を消し、念のため窓と入り口に鍵を閉めて、カーテンで月明かりを遮断した。


 さらにPCを起動し、高性能の遮音性を持つヘッドホンをする。


「こういう時は……さらに強い刺激を加えて、忘れるしかねぇーな」


 普段なら次の日仕事がある場合は12時前に就寝を心がけている俺だが……この日は深夜2時に寝た。

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