44話 わたしの願い

 高校2年の頃初めて男子と付き合った。

 最初は一緒に帰ったり、映画館でデートしたり、長電話したりと楽しかった。

 結局"付き合う"ということがなんなのかは付き合ってみてもわからなかったけど、この友達の延長線上のような関係は私にとって居心地はよかった。

 もう一つわからなかった"好き"という言葉はこの時、なんとなくわかっていたと思う。


 でも彼は違っていた。


 ある日、彼の家に誘われた。

 その日は両親がいないから一緒にゲームをしようよと。

 私は快く承諾し、彼の部屋に入った。


 その時。


「きゃっ!」


 彼のベッドに押し倒された。


「エレナちゃん……」


 急に迫ってきた彼。

 今までの大人しい雰囲気とは違い、強引な彼を見て私は———。

 

「嫌!!」


 拒絶した。


「どうして、嫌がるの?」


「いや、だって急に、こんなこと……」


「もう俺達付き合って1年経つんだよ。なのに、恋人らしいことは一つもしてないから……」


 恋人らしいこと……?


「急にこんなことをしたのはごめん……でも、俺、エレナちゃんと……そういうこと……したかったから……エレナちゃんは?」


 わからなかった。

 いや、正確には別に彼とキスをしたいと思ってもなかった。

 ただ、この関係がずっと続けばいいやとそんな単純なことを望んでいただけだった。


「いや、別に……良いんじゃない、私達は私達で。無理に他と合わせる必要はないよ」


 その場をなんとか潜り抜けようとした。

 しかし。


「嫌だ!」


 いつもなら私の言うことに合わせてくれる彼だったが、この時だけは違っていた。

 まるで何かに取り憑かれていたみたいに、私の腕を握り続けていた。

 

「俺はエレナちゃんが好きだ……! だから、今よりも先に行きたい! 初めて会った時からずっとそう思っていたんだ!」


 徐々に息が荒くなっていく彼がとても怖く思えた。

 次第に腕を握る力も強くなっていく。


「うわっ!」


 再び、ベッドへ押し倒された。


「お願い。大丈夫、優しくするから!」


「嫌……」


「大丈夫だから、ね?」


「やめて……」


「エレナちゃん!!」


 彼の顔が近づく。

 無理矢理襲いかかる彼を見て私は知った。


 そっか……。


 この人も、今まで私に告白してきた人達も……。

   

「エレナちゃん……俺、エレナちゃんと……」


 私じゃなくて私の体が好きだったんだ。


 迫ってくる彼に私は……。


「結局、キスしたり体を重ねることが"付き合う"ってことなの?」


「え?……うわっ!」


 呆気に取られた隙に私は彼を押しのけて、部屋から飛び出した。


 そっか。

 

 そういうことだったんだ。


 みんな、誰も、私のことを。


 本当に見てくれていなかったんだ。


 後日、彼から謝罪と共に別れの言葉がメールで届いた。

 それ以降、彼と話すことはなかった。

 高校を卒業してもずっと……。


 ほらね。 

 ヤらせてくれないと思った瞬間、離れていった。

 それが男の本質。

 所詮、人は見た目でしか人を判断しない……。


 それならいっそ私も……。


「ねぇ、君、モデルの仕事に興味ない?」


 大学に入り、街を歩いていたらスカウトされた。 

 モデルという仕事に興味はなかったけど。


「はい」


 偽りの自分を演じていく為、モデルの仕事を始めた。

 そんなに私の見た目がいいなら、逆にそれを利用してお金を稼いでやる。


 半ばヤケクソだった。

 でも、反面願いも隠されていた。

 

 例えモデルという肩書きを背負っていても、私の本心を見てくれる……私自身を見てくれる……そんな人に出会う為の枷であり、願い。


 しかし、やっぱり誰もモデルの私、西園寺エレナではなくモデルのエレナでしか私を見てくれなかった。


 やっぱり……そんな人、この世界にはいないのかな……。


 そんな時に。


「好きな女性のタイプは"清楚系ビッチ"です」


 彼に出会った。

 

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