43話 わたしの気持ち

「キス……私……ゆうくんとキスしちゃったんだ……」


 家に着き、シャワーも浴びず私はソファに横たわった。


「しちゃったんだ……あーーー」


 顔をクッションに埋める。

 今思い返すと恥ずかしい……あんな大胆なことをまさか自分からやるなんて……。

 結局あの後、なんかお互い変な雰囲気になって解散したけど……ゆうくん嫌じゃなかったかな。


 嫌だったら嫌だな……。


 でも、嫌だったら抱きしめ返したりしないし、受け入れたりはしなかったはずだよね。ってことは……。


「そういうことでいいんだよね!!!」


 感情が昂るあまり、思いっきり口に出してしまった。


 はぁーー。

 ようやくゆうくんが私を意識しはじめてくれた。 

 これはもうゆうくんの恋心の落城も近いね!!

 

 香乃ちゃんとあの後輩ちゃんには悪いけど、彼だけは譲れない。


 彼だけは……。


「あれ……?」


 ふと不思議に思った。


 というか私どうしてここまで彼に興味を持ったのだろう。

 

 だって別に見た目がタイプってわけでもないし、ずっと一緒にいた仲ってわけでもない。

 趣味だって合わないし、気も別に合うわけではない。


 好きになる要素なんてないはず……。

 もしかして、ただの気まぐれ? 気の迷い?

 意地? それとも、プライド……?


 いや、どれもしっくりこない。


 だけど、私は彼に会ってから彼のことばかり考えている。 

 彼と一緒にいたい。彼と恋人になりたい。

 その気持ちは本物。

 決して軽い思いではない。

 でも、それがどこから来ているのかわからない……。

 どうしてここまで気持ちを揺さぶられているのかがわからない……。

 

 この気持ちには何か理由があるはずだ。

 私の今までの人生を覆すような"なにか"が!!

 

 そんな疑問を抱えたまま、私は眠りについた。




「エレナちゃんって可愛いよね」


「え?」


 その台詞を家族以外で初めて言われたのは小学3年生の頃。

 仲の良かったクラスメイトの女の子からだった。


「可愛いなんてそんな……」


「クラスの男子も言っていたよ。うちのクラスで一番可愛いのはエレナちゃんだって!」


「そんなことないよ。もーー」


 はじめはからかっているものだと思っていた。

 だけど———。


「西園寺さんがずっと好きでした!」


「西園寺、好きだ」


 男子に告白されるようになった。

 その時に私の中で私は男の子にモテるのだと確信した。

 私は人に好かれる存在なのだと。

 最初はすごく良い気分だった。だって、嫌われるよりも好かれる方が気分が良いじゃない?

 

 中学校に入ってからはさらに告白される回数が増えていき、


「西園寺、俺と付き合って欲しい!」


「西園寺さん好きです! 付き合って下さい!」

 

 好きという言葉と共に"付き合って"というのが増えた。

 サッカー部のエースの先輩。イケメンな生徒会長も私に告白し、この"付き合って"という言葉を言ってきた。

 色んな人に好かれるのは嬉しかったけど、正直、この"付き合う"というのと異性が言う"好き"という意味がずっとよくわからなかった。


 だからかな。

 高校の頃。


「僕と付き合って下さい!!」


 優しくて大人しそうなクラスメイトと。


「いいよ」


 初めて付き合った。

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