42話 微粒子レベルの恋心

 あの日、合コンから飛び出して立ち寄った公園に西園寺さんはいた。

 そして、あの時俺が座っていたベンチに座り、泣いていた。


「西園寺さん!!」


 俺は彼女の前まで走り、名を呼んだ。

 彼女は驚いた表情で俺を見ると隠すように涙を拭った。


「え、どうしてここに……?」


「あんたが散々俺をストーキングしていたアプリを逆に利用させてもらった」


「あ……」


 位置情報アプリを使って居場所を特定し、ここまで辿り着いた。


「な、なに。わざわざ私を追いかけてきて……悲しんでいる私を笑いにきたの?」


 皮肉……だけどそれには悪意がないというのは彼女の震えた声で一瞬でわかった。


「いや、違うよ……さっきのことを謝罪しにきたんだ」


「え……?」


「すまなかった」


 俺は西園寺さんに頭を下げた。

 案の定、彼女は動揺した様子だった。

 そんな彼女に俺は自分の本当の気持ちを打ち明けた。


「さっきああ言ったのは西園寺さんを遠ざける為だった。あんたが俺によく絡んでくるようになってから、自分の時間はなくなるし、勝手に俺のお宝本は見るし、どこ行っても突然現れるし……正直、迷惑だと思っていた……」


「ゆうくん……ごめんなさ———」


「だけど!!」


 彼女の言葉を思いっきり遮り、俺は続けた。


「それでも、今思うとあんたといた時間は割と悪くないと……反面思っていた。だって今まで全く趣味趣向が異なる異性と遊んだり飯食ったりする機会とかなかったら。新鮮だったんだと思う……それに……」


 ゆっくりと息を飲み込む。


「嬉しかった。こんな俺に興味を持ってくれたことが。本心ではすごく嬉しかったんだ」


 そう。

 今までクラスの端っこにいて、特に目立たない、誰にも興味を抱かれないこんな俺に彼女は好意を向けてくれた。

 京也や香乃、そして本人の前では澄ましたような態度をとっていたが、内心はすごく嬉しかったんだ。


「だけど、逆にそれが俺の卑屈な精神を大きくさせた。この人は俺なんかと一緒にいてはダメなんだって! この人はもっと上にいるなんだって! それが今日、西園寺さんのモデルの仕事を見て偉く痛感した。だから俺を諦めてもらおうと、あんなことを言った。ごめん……」


 再び頭を下げて西園寺さんに謝った。

 許してもらおうなんて思ってない。 

 良い人なんだとも思われようとも思っていない。

 所詮は自己満足。自分自身を正当化する為の言葉だ。  

 それでも俺はただ伝えたかったんだ。

 自分の本当の気持ちを。

 それでどんな結果になろうと俺は後悔はしない……。


「ゆうくん……」


 戸惑っているような声を出す西園寺さん。

 あ、そういえばまだ伝えていないことがあった。

 俺はさらにもう一つ彼女に本音を伝えた。


「あと、さっきの童貞を殺す服についてだけど、俺はブラウスよりも縦セーターの方が好きだから! あとオタクだからってアキバならデート誘えるって思わないで欲しい! あくまでアキバは一人か同じオタ友と行くのが楽しいのであってデートで行くような場所じゃない! デートに誘うなら100歩譲って池袋の乙女ロードか中野ブロードウェイにしてくれ!」


 早口でさっきの会話で思ったことを告げた。すると……。


「ふふ……はははははは」


 顔を上げると、涙を流したながら彼女は笑っていた。


「やっぱり……君は本当に面白いね」


 いつか聞いた台詞をまた言われた。

 

「面白いって、こっちは今真剣に——」


「ありがと——」


 そう聞こえた瞬間。

 俺の乾燥して少しカサカサな唇に柔らかいまるでマシュマロのような感触があたる。

 

 え? ちょ? え?

 

 突然の出来事で何が起こったのかわからなかったが、その感触が2秒続いた後に漸く理解する。

 

 俺今、西園寺さんに"接吻"されているゥ!

 え? なんで? 何が起こった? 

 先程の会話の流れでそういうフラグとかあったか?


 困惑する俺にそっと彼女は腰に手を回した。

 そのさりげない仕草に俺も反射的に彼女の腰に手を回す。


 な、なんだ……これ。


 お、お、俺は一体……。


 過去最大に動揺しながらもゆっくり顔を離す。


 すると、お互いの顔が合った。

 

 接吻を交わした直後のはにかんだ彼女の顔。

 それを見て俺の心の中の"ある気持ち"が芽生えつつあった。

 もしかして俺は……!!


 俺は…………!!!!


 西園寺さんのことが好き……?










 ……そんな想いが微粒子レベルで存在しているのかもしれない……!!







 

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