41話 本当の気持ち
居酒屋に一人取り残された俺は考えていた。
本当にこれでよかったのかと。
彼女の為を思えばよかったのかもしれない。
だって彼女は俺とは住む世界が違うから。
それに俺だって、この先ずっと付き纏われるのも嫌だったから。
そう思うなのに……何でだろう。
去っていく彼女の顔が消えない。
今にも泣きそうに涙を堪えていた彼女の顔が俺の脳裏に深くこべりつく。
俺は"また"間違えたのだろうか……。
いや、違う!
勝手な正義感、自分を聖人としようする自尊心に流されるな。
そんな見栄のような優しさがあったから、面倒くさい事態になってしまったんじゃないか!
香乃のことも! 星川のこととも!
きっと俺がどっちつかずで皆の気持ちに目も暮れず、ただ良い顔だけして逃げてきたから……。
まるで自分の嫌いなラブコメ鈍感系主人公と同じことをしているな。
色んな人に矢印だけ向けて、肝心な告白シーンでは狸寝入りこいてたり、誤魔化したりして、そんで最終的に手堅いメインヒロインを選んだり、誰も選ばなかったりする。
読者に反感を買うタイプのヤリチン主人公。
まさに今の俺だな。
「はぁ……」
一人残った卓で俺は残っていた温いビールを飲み干した。
俺はそんな主人公よりも努力してヒロインと結ばれるバトル漫画系の主人公になりたかったな……。
最初は主人公が一方的にヒロインのこと好きだったけど、主人公が色んな敵を倒して強くなっていくうちに惹かれていって、最終的にゴールインする感じの主人公に憧れていた。
やっぱり恋愛って突発的になるものよりも、それまでに紆余曲折あって、結ばれた方がなんか……いいじゃん。
エロだってそうだ!
突然ヤるよりも、それなりの過程があってヤった方が、なんか……エロいじゃん!
……まあ、この歳になったら別にどんな主人公になりたいとかどんなシチュエーションでヤりたいとかの憧れはないけどさ。
今のままじゃあ、あまりにも酷い様だ。
何なんだよ。これ! 俺は一体どうしたいんだよ!
どうしたら、このモヤモヤした気持ちは消える!?
うまく縁を切っても、心では揺れていた。
「俺はどうすればいいんだ……」
いなくなった目の前の席を見て、俺は俯いた。
西園寺さん……。
"私、君に興味持っちゃった"
"ねぇ、私と友達にならない?"
"好きだよ……今まで私が出会ったどの男性よりも、今一番、私はあなたが好きです。よかったら私と付き合って下さい"
ふと西園寺さんとの思い出が電流のように脳に走る。
その記憶を探り俺は自分の気持ちと向き合うとした。
俺は西園寺さんをどう思っているのか……。
そう言えば、まだ俺西園寺さんに自分の気持ちを言ってなかったな。
彼女は何回も俺に自分の気持ちをぶつけてたのに……。
このまま何も言わずにフェードアウトするのは流石にクズ主人公すぎるな。
「よっしゃ」
俺は立ち上がり、居酒屋を出た。
そして———。
自分の忘れ物を届けに彼女の所まで向かった。
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