美女モデルが根暗なオタクに惚れた件について

38話 やっちまった

「ん、ん……」


 鳥のさえずりと朝の日差しで目が覚める。

 もう朝か。

 頭が痛い。

 あれ? 昨日何してたっけ?  

 確か色々あった気がしたが、思い出せない。

 思い出せないということはあまり大したことではなかったのだろう。

 二度寝しよう。

 再び睡眠に入ろうと寝返りをうつとそこには……。


「ん、ん……」


 お っ ぱ い が あ っ た。

 

 というよりも裸ワイシャツ、しかもボタンが第三ボタンまで開けられたほぼ全裸の状態の姫咲さんが隣で寝ている……。


 ちょ、ちょ、ちょ、ちょ待って。

 ど、ど、ど、ど、どういうことや? 

 な、な、な、な、にが起きた?

 いや"ナニ"が起きたのか!

 まさか"ナニ"をしたんか!

 いやいやいやいやいやいや、そんな恐れ多いこと俺がするはずない。

 俺は筋金入りの童貞だ。

 こんな所で捨てるわけがない。


 しかし、目の前にあるおっぱいを見て、その自分の頑固たる意思が崩れていく。

 いかに、ガッチガッチの貞操観念があったとしても、この二つの欲を前にしたら、脆く崩れ去っていく。

 以前にも西園寺さんの家で今回と同じような出来事はあったがそれとは訳も状況も心境もおっぱいも違う。

 もしかしたら本当に……。


 いや、決めつけるのは早い。まずは状況を整理しよう。

 確か昨日、2人でユリユリのアニメを見ていた。

 それで確か、ちょうど家に酒があったから姫咲さんと飲み、アニメを見ながらユリユリ談義に花を咲かせていた。

 そんで酒のペースも早くなって、眠くなって……そんで……そんで……?

 

 そこから先が思い出せない。

 肝心な部分が記憶にない。

 ただ唯一覚えているのは……。


 彼女の胸の感触……。


 寝ている姫咲をじっと見つめた。


 っておいおい何ガン見してんだよ!

 そんなんに浸っている場合じゃない!

 起きないと!!


 ベッドから抜け出そうとすると、姫咲さんも目が覚め、俺と目が合う。

 

「え?」


 自分の状態と状況を確認し、固まる。

 どうやら彼女も驚いているようだった。


「お、おはようございまーす……」


 そんな彼女に顔を引きつりながら朝の挨拶をした。


「お、おはよう……」


 すると彼女も同じような表情で返してくれた。



「「…………」」


 無言で小さな部屋の中央にあるテーブルを囲む。


 お互いまだ何が起こったのか頭の整理ができていなかった。

 しかし、このまま無言を貫いていても状況は進まない。

 現実を見ることから大人へのスタートが始まる!


「あの——」


「昨日はごめんなさい」


 同じタイミングで言葉を出す。

 しかし、姫咲さんの勢いに負けて俺は口を閉じた。


「私……お酒は好きだけど、お酒弱くて……それで君にあんなことを……」


 あんなことってなんだーー!

 あんなこといいな、できたらいいな〜♪

 のあんなことか!!

 いやいや、餅つけ。

 まだ確証はない。慌てるのは早い。


「ははは、そうなんですね。だけどすいません、俺昨日のこと全然覚えてなくて……一体何が……」


 そう言い姫咲さんの顔を見るとどこか物悲しい表情をしていた。

 

「あ、覚えてないならいいの……うん……」


 おいおい、何この感じ。

 まるで俺がヤルだけヤッて記憶にありませんというクズ男みたいになってるじゃん。

 本当に何があったんだよ。

 この姫咲さんの様子を見るに結構なことが起きていたような気がするが、俺の想像通りのことでないことを心から祈る。


 だが、現実から目を逸らし、この件を流すわけにもいかない。

 一先ず。


「あの、とりあえず……すいませんでした!!!」


 俺は姫咲さんの前でまたしても土下座をかました。


「え、え?」


「何があったかはわかりませんが、とりあえず謝っときます。ほんとすいませんしたーー!!」


 何をしたのかわからないが、こういう場合男が罪に問われるのは確かだ。

 先手で謝って誠意を見せる。


 そんな俺の思惑とは裏腹に姫咲さんは、慌てながらも笑顔をつくり、


「か、顔を上げて。君は何も悪くないから」


 と優しく微笑んだ。


 そんな姫咲さんを見て俺は思わず……。


「お姉ちゃん……?」


 こう呼んでしまった。


 その瞬間、姫咲さんの表情は真っ赤ではなく、真っ青になり、


「え、あ、嘘……覚えてないんじゃ……いや、だけど……」


 独り言を言い出し、異常な様子を見せる。

 俺自身も何故、そんなことを告げたのか。

 不気味さが心を包んでいた。

 そして、その瞬間、急に姫咲さんは荷物を持ち出して、


「ごめんなさい……」


 そう言って顔を隠しながら部屋を出ていった。


 やっちまった。


 いかに姫咲さんにお姉さん的母性に目覚めからといってそれを口にするのは流石にキモ過ぎた。

 

「あーあ」


 ベッドに横になりながらため息をこぼす。

 せっかくできたオタ友だったのにな……しかし、昨晩一体何が起きたんだ?

 それに姫咲さんのあの様子……もしかして俺、姫咲さんに姉弟プレイを要求でもしてたのか!!

 俺にそんな趣味ない。むしろ姉より妹の方がいいしな。

 

 しかし実際はどうかわからない……。


 はぁ……俺も酒はほどほどにしよう。


 そう思いながらまた新しい朝を迎えた。



 

 

 

 

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