37話 やっぱりオタクに恋は無理らしい

「だから……」


「だから……?」


躊躇いもなく俺は姫咲さんに言った。


「ギャルゲーをはじめました!」


「え?」


 一気に力が抜けたような反応する姫咲さん。


「一先ず、彼女を作るシミュレーションをしようとひたすらギャルゲーをやり、星の数の女性を落としてきました」


「は、は……」


「ですが、ギャルゲーを沢山やって思ったんです。"あれ? 別にこのままでもいいのでは!?"って! そこからさらにギャルゲーや2次元に浸っていきました。2次元の嫁さえあれば何もいらないんです。だから今更、3次元にモテても何とも思わないんです。むしろアニメを見る時間やギャルゲーをやる時間がなくなるので今の俺にとっては迷惑なんですよ! まあアイシスのほのかちゃんみたいな子だったら別ですけど……ごほん! ということで俺は誰も選ばず逃げてきたというわけです」


 今の俺の本音を吐露すると姫咲さんは。


「そっか……」


 と一言言うだけだった。


 あれ、なんだこの塩反応。思いっきり引かれるか同じオタクだから共感されると思ったけど……。


 妙にシラけてしまったな。


「そ、それじゃあ……まるっきしその……現実の女性には興味はないの?」


 恐る恐る聞かれる。

 

「リアルの女性ですか……うーん……いや、別にそんなことはないですね。2次元厨ってわけでもないですし」


 普通にAVとかも見るしな。


「現に姫咲さんとホテルに行った時も、こうして俺の部屋に来ているのも、内心ドキドキしてますしね」


「え……!」


 姫咲さんの顔が急激に赤く染まる。

 やばい、今のは流石にキモ過ぎたか。うまくはぐらかそうとした、その時———。


「わ、私も!!」


 姫咲さんが声を上げる。


「私も……神原くんといると……ドキドキする……」


「え……」


 動悸がするんですか? 救心買ってきましょうか?

 ふざけた言葉が一瞬浮かんだが口にしなかった。

 だって、この様子とこの台詞……明らかにこれは……。


 これは……。

 

 俺は立ち上がり、姫咲さんの隣に座った。

 驚いた様子だったが、姫咲さんは離れずその場にいた。


「姫咲さん……だったら俺と……」


「俺と……?」


「俺と……」


 姫咲さんの肩を優しく抱き、そして。


「ドキドキを共有していこう! 同じ! 魔法少女として!」


「え?」


「いやーー。まさか急に"ユリユリ"の第一話の名シーンを入れてくるなんて思いませんでした。恐ろしく静かな演技、俺でなきゃ見逃してましたよ、絶対。ハハハハ」


 笑うと姫咲さんも少し表情が砕けて、


「ふふ、よくわかったね」


 そう微笑みながら言った。


「分かりますよ! ユリユリはもう何周もアニメ見てますから! あ、そうだ! よかったら今日一緒にユリユリのOVA見ませんか? ちょうど最近、手に入れて、姫咲さんと見るために取っておいたんです。どうですかね?」


「……うん!」


 快く頷いてくれた。 


 こうしてこの夜も姫咲さんと2人でアニメを見ることになった。


 やっぱり、彼女よりもこういうオタク友達の方がいいな。


 好きなことを思いっきり話し合えるし、変に気を遣わなくてもいいしね。

 性の垣根を超えて関われる、やっぱり趣味ってのは男女関係なしに楽しめるものなんだな。


 この時の俺は"男女の友情"の存在を確実に信じていた。


 そうこの時は……。


 だが、のちに気づく。

 男と女というのはどこまで言っても纏わりつくものだと、骨の髄まで味わうことになる……。




 

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