36話 真面目な話


 カフェを出て俺は真っ先に電車に乗り、我が家へと直行した。


 「あーー」


 家に着いた途端、死んだようにベッドに倒れた。

 なんとか"女性を己の欲望を満たすための存在だと見ていたことに気づき絶望した人"の振りをして無理矢理逃げてきたが……。

 これで諦めてくれたらいいが。

 不意にスマホを見ると西園寺さん達から沢山の連絡が入っていた。

 

「しんど……」


 位置情報のアプリ消したが、そのうち家にもきそうだな。

 

 ピンポーン。


 そう思った矢先にチャイムがなった。

 やはりな。

 でもいいや。居留守かまして寝よう。

 もう色々と考えるの疲れた。

 ゆっくり休ませてくれ……。


 ピンポーン。


 もう疲れたよパトラッシュ……。


 ピンポーン。


 だから疲れたってパトラッシュ。


 ピンポーン。


 いい加減にしろよ、パトラッシュ。次やったらマジで許さないからな。


 ピンポーン。


 おいおいマジかよ、パトラッシュ。3回までならまだわかるよ。でも4回は流石に諦めろ。


 ピンポーン

 

「いい加減にしろよ!! 5回はもはや嫌がらせだからな!!」


「神原くん……」


 声を上げると扉の外から姫咲さんの声がした。

 あれ、どうして……。


 すぐ様扉を開けると、モジモジした様子で玄関の前を立っていた。


「姫咲さん……」


「遅くにごめんなさい……ちょっと君と話がしたくて……」


 話……? 


「一先ず、立ち話もなんですし、どうぞ」


 俺は姫咲さんを部屋に入れた。



「おーー!」


 部屋に入るやいなや、目を光らせながら俺のフィギュアやタペストリーを見る。


「すごい……これ"ユリカ"の限定フィギュア! こっちにはイベント限定のタペストリー!!」


 香乃と西園寺さんは引いていたが、まさかテンション上がるとは思わなんだ。

 しかし。


「あの……話ってなんですか? まさか、星川達に頼まれて俺を連れ戻しに来たんですか?」


「違う、違う……あの後結局、無言でみんな解散したから……ここに来たのは私の意思だよ」


「意思?」


「神原くんに聞きたいことが……あったから……」


「なんですか?」


 狭い男部屋で座椅子に座りながら姫咲は話始める。


「神原くん……どうしてさっき誰とも答えなかったの……?」


「え……?」


「だって……あんな可愛い子達に告白されたのに、どうして逃げてきたの?」


 姫咲さんの急な問いに戸惑いを隠しきれなかった。

 でも、冷静に考えれば普通のことか。こんなかっこよくも金持ちでもない俺がいきなり3人の女性から告白されたのにどれも承諾しないなんて分不相応だよな……。


「自分の立場を弁えてないですよね」


「いや、別にそういう意味では……」


 困り顔をする姫咲さん。

 そんな彼女を見てなんでだろう。あまり自分の本心を話すのが好きではない俺だったが、彼女になら話してもいいかなと思ってしまった。


「俺、これでもというか物心ついた頃からこれだから今までずっとモテなかったんです」


「え?」


「学生時代はいつも日陰者で恋愛とかにはずっと無縁、というか自分にとってはあり得ないものでした」


「……それじゃあ今まで彼女……とかいなかったの?」


「はい。そもそも欲しいとも思いませんでした。だってその分、同じ趣味を持った友達もいましたし、何より2次元で満足できました」


「そっか……」


「だけど……大学生の頃、ある時思ったんです。俺このままでいいのかなって。このまま現実を見ず、2次元に没頭したまま、30代、40代を迎える自分を想像したらすごく怖くなりました。だから……」


「だから……?」


 唾をゴクリと飲み込み、俺は姫咲さんの瞳を見て告げた。



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