30話 2次元に夢みろ
「もう一度僕とやり直して欲しい!」
人ゴミの中で下田くんは星川に告白する。
しかし、星川は。
「いや、普通に無理なんですけど」
呆気なく振った。
「どうして! 僕は君のために沢山尽くして来たじゃないか! 欲しかったバッグも買ってあげたし! 買い物だって沢山付き合った! それなのにどうして、急に僕を振ったの? どうして僕から離れていったの!?」
「それは……」
強く言い寄られて、圧倒される星川。
なんか昼ドラみたいになってきたなと他人事のように俺は"アイシス"をしつつ傍観していた。
「重くなったの……」
「え……?」
「あんたが重くて面倒くさくなったからよ! はじめは大人しくて優しくて、それでいて気が合っていたからよかったけど、付き合った途端、すごい私に尽くしてくれるし、誕生日に無理してヴィトンのバッグ買ってくれるしさ。それはまあ別にいいとして、でも、それをエサにして変なアニメキャラのコスプレしてほしいとか急に言ってきたり、私が見たことのないアニメのライブとか無理矢理連れて行ったりして、私本当に嫌だったんだよ。
自分のオタク趣味を私に押し付けてくる感じが本当に無理だったの!!」
溜まっていた愚痴を吐き出す。
うわーー。なんだろう。
星川の気持ちも下田くんの気持ちもわかるからなんかすげぇー胸が痛い。
特に下田くんが星川にやったこと、同じオタクとして共感ともに非常な痛みも感じる。
居た堪れないぜ。
「でも、君、コスプレもライブ喜んでいたじゃないか!」
「振りよ! 振り! そんなんで本当に喜ぶわけないじゃない!!」
「そんな……」
落ち込む下田くん。
まあ、人とは失恋を重ねて大人になっていくものだからな。
仕方ない。
「ごめん……だけどもう無理なの。だから諦めて」
そう言い、星川がその場から離れようとした時。
「嫌だ……!」
と下田くんが星川の肩を掴む。
「痛っ!」
「僕がどれだけ、君を想ってきたか!!」
「離して!」
「君は僕と結ばれるんだ……!」
いかん! 下田くんが若さ故の過ちを募らせていっている!! このままいけば確実に彼にとって黒歴史となる!!
拗らせすぎている俺から見ても気持ち悪いオタクを野放しにはできない!!
俺はアイシスの手を止めて、二人の間に入った。
「ちょ待てよ!」
「先輩……」
「何ですかあなたは? というかどうして湊ちゃんと一緒にいるんですか?」
怒りの矛先が俺へと向かう。
しかし、俺は君の敵ではない。
彼の問いを無視して、星川を引き剥がし、彼の肩を叩く。
「落ち着け少年! 君の気持ちも痛いほどわかる! だが現実を見ろ!」
「現実?」
「君がどれだけ尽くしても現実の女っていうのはすぐ別の男に鞍替えする。俺達みたいな陰キャ好きっていう女もいるがそういう奴らも結局は遊び人みたいな男へと行くんだ」
「でも湊ちゃんは違う! 湊ちゃんはちゃんと僕を見ていた……」
「だが別れた。オタクの頑張りとオタク趣味は普通の女には受け入れられない。それは紛れもない事実だ」
「そんな……」
あまりのショックにその場で倒れ込む下田くん。
「だがな……」
そんな彼に俺は手を差し伸べた。
「それはあくまで3次元での話だ。2次元は違う! 2次元の恋愛は俺達を否定しない。全てを受け入れてくれる」
「2次元……」
下田くんのカバンのストラップを見る。そこにはアイシスの"カンナちゃん"というキャラが描かれていた。
「君もアイシスが好きなんだな。だったらアイシスで夢を見ようや。現実はクソだ。星川は君を受け入れてくれなかったが、カンナちゃんならきっと君を受け入れてくれる……」
優しく告げると下田くんは自分のストラップを見て何かを悟る。
「そっか……そうだよな。現実はクソだっていうのははじめからわかっていた。だけどいざ現実で彼女ができて正直浮かれていたんだ。でももう目が覚めました。僕の彼女は湊ちゃんじゃない! カンナちゃんだったんだ!!」
「そうだ! お前は一人じゃない!」
「はい!」
お互いアイコンタクトで思いを共有する。
無意識に固い握手をしていた。
そして、スマホを開き、アイシスのフレンドとなった。
「これで今日から君は俺の仲間だ」
「はい! 師匠!」
その後、下田くんとアイシスの話をして盛り上がった。
「え、ちょ、なにこれ……?」
展開についていけなかった星川が引いたような表情で俺達を見ていたが、そんなの気にしないで俺たちは熱いオタトークを続けた。
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