29話 青少年健全育成条例だけは死んでも守れ!


 あーん……だと!!

 何考えているんだ、この女!


「はい、あーん」


 一口サイズのケーキを俺の顔の前に向ける。


「お前ちょ、ちょ、ちょ、待て!」


 変に動揺してしまった。

 そんな俺を見て星川はさらに面白そうにする。


「あれ〜〜どうしたんですか? 先輩〜〜もしかしてドキドキしてます?」


「は!? し、してねぇーし。これぐらい余裕だし! 大人をなめるな!」


「それだったら。ほらあーん」


 さらにスプーンを近づける。

 あーんが、なんだ! それぐらいで動揺するほど童貞を拗らせていない。

 ゆっくり口を開く。

 しかし、その瞬間あることが頭をよぎる。

 あれ、でもこれ、間接キスじゃないか? 

 星川の奴、さっきまで口にしていたスプーンをそのまま出してきているわけだし……そうなると俺と星川は……。


 "不純異性交友"をしていることになるんじゃないか? 

 そうなるともしかして俺、捕まる?

 だって星川まだ未成年で俺は仮にも成人だろ。これはあかん!!


 開いた口を閉じる。


「あれ、どうしたんですか? 先輩?」


「お前は俺を犯罪者にしたいのか?」


「は? 何言ってんですか?」


「いいから、こういうことはやめてくれ」


 そう強くいうと星川が急に不貞腐れているような顔になり、


「ならいいです」


 と自分でケーキを口にする。

 何とか不純異性交友は免れたようだ。

 一安心すると星川が小さく呟く。


「先輩は、私とは嫌なんですね」


「え?」


「別に何でもないです! さあそろそろ次行きましょう」


 不機嫌そうな星川と共にスイーツバイキングを後にした。




「おい、次はどこ行くんだよ」


「先輩は黙って私について来てください!」


 強く言いながら俺の前を歩く。

 さっきのことまだ根に持ってんのか。


「あ、ここのお店寄りましょう!!」


 竹下通りを歩いているとアパレルショップの前に止まり、星川が入っていく。

 

「へいへい」


 服を見た瞬間、目の色変えやがって、現金な奴。


「あ、これすごく可愛い! 先輩見てください! 似合ってます?」


 白いワンピースを手に取り俺に見せる。

 ほぉ……ほのかちゃんも着てそうだな。


「良いんじゃないか。純白って感じで俺は結構好きだぞ」


「ほんと! ならこれにしよう!!」


 女の買い物は長いと思っていたが、こいつは判断力が早いらしいな。


「はい、先輩」


「え?」


 ワンピースを渡される。


「だって今日は奢ってくれるって言いましたよね?」


 こいつめ……!

 奢ってもらえるから判断が早かったのかよ

 俺は地味に高いワンピースを渋々奢った。


「先輩、ありがとうございます!」


 店を出て嬉しそうにワンピースの入った紙袋を握りしめる。

 クソぉ……ギャルゲー一本分の金が溶けた。


「ふんふん、ふーん〜〜」


 上機嫌に鼻歌をする星川。

 そんな星川を見て別にいいかと思ってしまう。

 

「あ、先輩先輩、次はあっちの方行きましょう!!」


「ああ」


 その後も星川に連れられて原宿さらには新宿まで巡った。

 そこら辺を巡るのは初めてだったので俺にとってはすごい新鮮な感じだった。

 それも女子高生となんて……。

 アニメショップを巡り以外でも人と普通の店を巡るのも案外悪くないのかもしれない。


「はぁーー! 楽しかったーー!」


 夜6時。

 人が行き交う新宿駅前を歩きながら星川が満足そうに言う。


「楽しんでもらえたらなら何より」


「写真もいっぱい撮ったし、これで先輩も満足でしょ? あとで送っておきますね」


「あ、ああ」


 そういえばそうだった。

 普通に楽しんでいて俺自身が目的を見失っていた。

 しかし、星川のお陰で西園寺さんも香乃も俺とは距離を置くだろう。

 これでまた一人のオタクライフを楽しめる……。


 拳をギュッと握りしめた。

 その時。


「あ、あ……湊ちゃん……」


 星川を呼ぶ声がした。

 振り返るとそこにはいかにも暗そうでひ弱そうな高校生くらいの男の子がいた。


「下田……」


 星川が男の子を見て言う。

 どうやら星川の知り合いらしい。


「どうして……どうして知らない年上の人と一緒にいるの!!」


 急に下田が声を上げる。


「別に……あんたには関係ないでしょ」


「関係なくはないよ、だって僕達、"付き合ってた"じゃないか!!」


「????」


 俺は頭にハテナを浮かべた。


「今は関係ないでしょ!」


「関係なくはないだって僕は……僕は……」


 下田が一歩こちらに踏み込む。

 星川の体がびくついた。


「まだ、君のことが好きなんだ!」


 駅前で堂々と愛の告白をする。

 何これ? もしかして俺、修羅場に巻き込まれている??  

 話が長くなりそうなので俺はしれっと一歩二人から離れて"アイドルシスターズ"のアプリを起動した。

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