27話 とりあえず黒スキニー履いとけば何とかなる

 11時45分。

 確か12時に原宿駅前で待ち合わせだったな。

 

「クソ、どうしてこんなことになったんだ……ったく」


 ぼやきなが交差点を歩く。

 久しぶりの日曜休み。なかなかいけなかった同人イベントとか行きたかったのに、どうして……。

 でもまあ、これからの平穏な日々のためだ。仕方ないな。

 あ、もういる。


「おーい」


「遅いですよ」


 会ってそうそう理不尽な愚痴を言われる。


「いや、待ち合わせ12時じゃん」


「男性なら30分前に来てください。女性を待たせるなんて論外です」


「へいへい」

 

 相変わらずの小悪魔モード。

 

 どうして花の日曜に星川といるのかと言うとこれには訳があった。


……………………


「え、なんて?」


「だから私が彼女の振りをしてあげます」


 意外な提案に度肝を抜かれる。

 まさか星川の口からそんな言葉が出るなんて……でもこれは願ってもないことだ。力を貸してくれるならここは素直に頼もう。

 いや待て! 今まで見てきた限りこいつは打算的な女……京也と同じ損得勘定だけで動くタイプだ。きっと何かしらの見返りを求めるはずだ……。


「お前、何を考えている?」


 疑いの眼差しを向ける。

 しかし、星川はそんな視線をなんとも思わず、涼しい表情で返す。


「このまま先輩がモテているのが気に食わないだけです。人の恋路を邪魔するの好きなんで」


 こいつ倫理観バグってんだろ。ちゃんと道徳とか受けてきたのか? 

 

「そうか。それでいくらだ? いくら取るんだ?」


「人助けにお金なんて取りませんよ」


「え!?」


 金を取らないだと。無償で協力してくれるというのか。


「ただ一つ条件があります」


 きた。その条件が恐らく金銭以上の価値がある……。

 俺はゴクリと唾を飲み込んで聞いた。


「条件、なんだそれは?」


「先輩、私とデートして下さい」


「へ?」


 で、で、デート!! どういうことだってばよ。


「私、どうしても行きたい場所があって、でもそこカップル限定で〜〜今私彼氏いないからどうしようかな〜〜と思っていたんですよ。それにこのデートでいっぱい私と写真取れば彼女いるという証拠にもなりますし」


「確かに……」


 しかし、それにしてもこの女が俺なんかの為にこんな面倒なことをするとは思えないが……。


「あ、もちろんデート代は全部先輩の奢りで!」


「それが本命かよ!!!」


 ……………………



 となんやかんやあって承諾した。

 でもまあ、これで平穏なオタクライフが戻れば安いもんか。


「それで先輩、私に何か言うことありません?」


 星川が目を光らせてこちらを見る。

 何かこいつにいうこと……? 

 うーん。


「あ、お前今朝の"プ○キュア"見たか?」


「違ーーう!!! ったくこれだからオタクは……」


 やれやれと首を振る。

 

「まず、デート会った時は服を褒めるの! どう? 今日の私の服装。先輩といることを合わせて大人っぽくしてみたの」


 白いカットソーに黒いロングスカート。髪のウェーブもいつもより落ち着いていて、それにどことなくいつもより化粧が濃いような。

 よくわからないがいつもの星川とは少し違う……のか? 

 ようわかんねぇ。"モビルスーツ"だったら装備、型番、製造年が違うだけで区別がつくんだがな。

 だけど、褒めておかないと怒られそうだし、てきとうにあげとくか。


「わー可愛い可愛い」


「なにそれ、てきとうーー。ないわーー」


 細い目で睨まれる。


「それにしても驚きました。先輩、もっとダサい服装で来ると思ってましたが、意外とそこそこの美的センスはあったんですね」


「余計なお世話だ」


 服装を診断される。

 俺は青い半袖のジャケットに白Tシャツ、それに黒スキニーとシンプルな感じで仕上げてきた。

 というかぶっちゃけ京也の入れ知恵なんだけどな。

 京也曰く"お前のようなパッとしない男は黒スキニーさえ履いておけば大丈夫"とのこと。

 どうやら正解だったらしい。


「さあ、行きましょう先輩。今日は私にとことん付き合ってもらいますからね!」


「お、おい」


 俺を置いて先に歩いて行く。

 何が大人っぽくだよ。まるではしゃぐ子供のようじゃないか。


「ったく」


 でもまあいいか。

 

 俺は星川のあとをついていった。

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