小悪魔後輩にデートに誘われて修羅場になった件について

25話 書店員のオススメはあまり信用するな

 俺と姫咲さんはこのままアニメを見て一晩明かし、そして始発で同じアパートに帰ってきた。


「それじゃあ、ゆっくり休んでください」


「神原くんもね」


 部屋に入ろうとする直前、


「あの……」


 姫咲さんが俺の手を止める。


「なんですか?」


「また……よかったら……一緒にアニメ見ない?」


 言いにくそうに告げる。


「はい! もちろんです!」


 そう言うと姫咲さんは小さく笑みを浮かべて、


「ありがとう……それじゃあ……また」


 と言って部屋に入っていった。


 色々とあったが、オタク仲間が増えて俺も内心嬉しかった。

 さてと、出勤まで時間はあるし、少し寝るか。


 ベッドに横になった。

 あれ……何か忘れている気が……?


「あ!!!!」


 思わず声を上げた。

 そうだ、俺、彼女作るために街コン行ってたんだ! くそ! すげぇーいい気分で寝ようとしていたが、何一つ問題が解決していない。 あ、そうだ、せっかく姫咲さんに出会えたんだから事情を説明して、俺の彼女の振りをしてもらおう!! 

 いやいや、そんな面倒くさいこと頼めるかよ。それにせっかくできたユリユリ仲間を手放すわけにはいかない。

 クソ……困ったな……。


 悩みながら俺は眠りに入った。



…………………………


「はぁーーー」


 本屋のカウンターで思いっきりあくびをした。

 流石に朝帰りからの仕事はしんどいな。

 早く帰って寝たいぜ……。

 

「今日はいつも以上に気怠そうですね」


「ん?」


 隣で声が聞こえて振り向くとそこには勤務中にも関わらず、堂々とファッション雑誌を読む不真面目のアルバイトのJKがいた。


「おい、店長に見つかったら怒られるぞ」


「大丈夫ですよ。店長、私には優しいですから。あと、仕事中にアニメ雑誌を見ている神原先輩にだけは言われたくありません」


「いや、あれはリサーチだから。仕事の一環だからね。でも君のは完全趣味やん」


「なら、私も仕事の一環ですよ。色んなファッション雑誌を見て研究しているんです」


 ああいえばこう言うだな。

 でも自分も全く同じことをしている分、うまく言いくるめない。


「それに私だって仕事はちゃんとしますよ。先輩以上に」


「え?」

 

 小太りの中年のお客さんがビジネス雑誌を買うためカウンターに来る。

 するとひょっと彼女はカウンターに立つ。


「田中さん、いつもありがとうございます! あ、定期購読している雑誌入ってますので用意しますね!」


「あはは、いつもすまないね"みなと"ちゃん」


「はい! あ、あとこれ田中さんが好きそうな小説見つけたのでよろしければ」


 そう言い、いかにも面白く無さそうなタイトルの小説を渡す。


「え? これ私のために選んでくれたの?」


「はい、田中さんはいつも当店を利用してくれらので!……余計なお世話でしたか?」


「いやいや、湊ちゃんがせっかく選んでくれたんだ、これも買おう」


「ありがとうございます!」


 まるでセールスマンのように買わせる。

 それにお釣りとレシートを渡す時、しっかり相手の手を握っちゃって、感謝のサービスまでしている。 

 

「それじゃあ、またね湊ちゃん」


「はい、お待ちしておりまーす!」


 ニコニコで帰っていく田中さんが店から出るまで見送る。


「どうです? 売れない本を買わせた上でお客さんがまたリピートしてくれるようサービスする。先輩じゃ到底できないことですよ」


「いや、それもう押し売りじゃねぇーか!!」


 強気な表情で俺を見てくる。

 ったく……相変わらず、この後輩……"星川 湊"は性格が小悪魔だ。

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