24話 orz

 トイレに行こうとしたら何故か女性の胸を揉んでしまった件について。


 タオルも取れてほぼ産まれたままの状態の姫咲さん。

 そんな姫咲さんに覆い被さる俺。


「きゃーーーーーーー!!!」


 ホテルの一室で悲鳴が響く。

 

「え……」


 姫咲さんが"あれ、ここで叫ぶのって私の方じゃない?"と言わんばかりの瞳でこちらを見る。


 いや、恐らくこの状況で一番度肝を抜かれてるのは俺だ。

 だってここまでエッチな展開にならないよう気を張っていたのに一瞬でそれがだめになったのだから。


「!!」


 やばい。叫んだことで尿意が……。


 俺はすぐさま、起き上がりトイレへ走っていった。


「か、神原くん……?」


「土下座なら後でします。今はちょっとトイレに!!」


 ギリギリだった。

 いや、少しほんの少し出ていた。

 あと数秒遅れていたら確実に最悪な展開になっていた。場所も場所ということもあり、一種のそういったプレイになっていたかもしれない。

 危なかった。


 トイレから出ると姫咲さんがバスローブに着替えていた。

 そんな彼女の前に立ち俺は思いっきり綺麗な土下座を披露した。


「すいませんでした!!!!」


 土下座を見て、戸惑う姫咲さん。

 そんな彼女に俺は許しを得ようと必死に状況を説明する。


「あの、でも聞いてください。これには色々と事情があるんですよ。姫咲さんを見ないように俺ずっと反対側見ていたんですよ。そしたらね急に尿意が襲ってきて、ほら落ち着いたら突然、忘れ去られていた尿意が来ることってあるじゃないですか。つまらない授業中しかり、全校集会の校長の話しかりとね! だけど姫咲さんが出るまで我慢しようとしていたんですよ。でも尿意が臨界点を突破して、流石に漏らすわけにもいかなかったので、シャワールームを見ないよう低姿勢で素早くトイレに向かったんですよ! ところがどっこいちょうど目の前に姫咲さんがいて結果ああいうことになったわけです。偶然です! ラッキースケベです! 決してやましい気持ちがあってやったことではないです。まあ確かに揉む必要もないのに胸は揉みましたよ。しかし、人間って未知の感触を前にしたら揉みたくなるじゃないですか。条件反射ってやつです。ですのでこれはあくまで事故なんです! どうか寛大な処置を……!!」


 オタク特有の早口で言った。

 必死さは伝わったはず……どうだ……?


 頭を下げたまま、視線を彼女の方にやる彼女は——。


「ふふ……はは」


 何故か笑った。


「え?」


「あ、いやごめんなさい。だけど私は別に気にしてないから……」


 許された……のか?


「やっぱり……君はいい人だね」


「へ?」


 はにかんだ表情で彼女が言う。

 トイレへ行こうとしておっぱい揉むことがいいこととは到底思えないな。

 姫咲さんの考えていることはよくわからない。

 

 その場はそんなよくわからない感じで治った。

 それから俺もシャワーを浴び、雨で濡れた体を洗った。

 

 本来だったらここからチョメチョメが始まるのだろうが俺達はそういう目的でここにきたわけではなかったので、そのまま始発が出るまで時間を潰そうとしていた。


 うーん。

 

 心の中で唸る。

 部屋にはベッド一つだけしかない。まあ寝ればいいのだけど、こんな状況で寝れないだろうな。

 さてどうする?

 この不健全な場で健全に時間を潰すにはどうしたらいいのだろう。

 姫咲さんもベッドに座ってモゾモゾと落ち着きがないようだった。


 あ、そうだ!


「姫咲さん、明日仕事ですか?」


「え、いや……休みだけど」


 よし。それなら夜更かししても問題ないな。


「もし、よかったら始発が動くまで一緒に見ませんか?」


 そう言い俺はスマホを見せる。


「見るって?」


「ユリユリ! 俺"Bアニメストア"に登録しているので、全話見れます! どうです?」


 尋ねると姫咲さんは満面な笑みを浮かべ、


「うん……!」


 快く承諾した。


 その後、時間の許す中で俺達はベッドで座りながらアニメを視聴した。

 アニメは基本一人で見る俺にとって誰かと見るのはすごく新鮮で、それでいて、共感する所もあって、楽しかった。


 煩悩とか、男女とか、そういったことを忘れて俺は姫咲さんと夜が明けるまで過ごした。


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