23話 あの日触れたおっぱいの感触を僕は忘れない


 ひょんな成行で俺はお隣に住んでる姫咲 那奈さんとラブホに入ることになった。


 やべぇー。はじめて来たけど本当にあるんだな……。


 丸いベッド!!

 ガラス張りのシャワールーム!!

 あとピンクの照明!!


 うわ、エッチだな……。


 単純な感想が出た。

 こんな空間で人々は夜の営みをやっていたんだな。

 浮気、不倫といった行為もここで行われていると思うとなかなか感深いぜ。


 だがしかし。


 互いに背中合わせになりながらベッドに座る俺と姫咲さん。


 これは気まずい。

 だって俺達別に"そういう"目的で入ったわけじゃないんだし。ただ雨宿りしに来ただけだし。

 それなのになんだこの部屋は!?

 このどうぞやってくださいという言わんばかりの空間は!?


 すげぇー居ずらい……特に童貞の俺には今この状況すごく辛い。

 ひとまず俺にその気がないことアピールしないと、えとえと……。


「ひとまず、シャワー浴びます?」


 振り向いて言う。

 あれ? なんか卑猥だぞ。


「え、うん……どっちから行く?」


「あ、姫咲さんからどうぞ」


「あ……」


 丸見えのシャワールームを見て顔を赤くする姫咲さん。


「あ、自分反対側見てるんで!! 絶っっっっ対見ないんで!! まじです!!」


 必死さを全面に出したがかえって気持ち悪いな。

 姫咲さんはコクリと頷き、


「わ、わかった」


 とシャワールームに行った。

 俺はシャワールームを見ないよう窓の方を眺めた。

 ん……窓?


 窓の反射でシャワールームが見えた。


「いかん!!」


 カーテンを閉めた。

 あぶねぇー。

 ひとまずこれで安心か。ここで少しでも下心を出したら俺は確実に社会的に死ぬ。

 ここは意地でも何もしないというアピールをしないと。

 

 そう決意すると後ろから布擦れる音が聞こえた。

 後ろで姫咲さんが服を脱いでいる……。

 後ろで姫咲さんが全裸に……。

 後ろでおっぱい……。


「オラッ!!」


 自分で自分の顔面を殴った。

 いかんいかん。煩悩を鎮めなければ……。

 心を落ち着かせようとベッドの上で座禅を組む。


 心を落ち着かせて無のエネルギーを感じ、負のエネルギーを相殺させるんだ……。

 無心になれ……無心に……。


 ……………


 徐々に心が落ち着いていく。なんだ俺やればできるじゃん。どんな時も心を落ち着かせることができればどんな問題も対処できる……どんな時も平常心……平常心……。


 あれ……?


 しかし、煩悩が消えたことになり俺の中で潜んであるものが現れ出す。それはある意味煩悩以上に厄介で抗えないもの……築き上げられた平常心が一気に崩れていく。


 やばい……?


 今自分の置かれている状況を理解し俺は冷や汗をかく。

 煩悩と自我の堺で慌てふためいていたさっきまでの自分が小さく思えるほどの大きな非常事態……それは……。


「トイレに行きたい……」


 尿意だった。


 やばいやばいやばいやばいやばい。


 落ち着いたらすげぇートイレに行きたくなった。

 しかしどうする。トイレに行くにはあのシャワールームの前を通らないといけない。それ即ちあのガラス張りのシャワールームにいる姫咲さんを見る恐れがある。

 それはだめだ……。

 仕方ないここは姫咲さんが終えるまで待つしかない。


 しかし、体感時間10分、20分経っても姫咲さんは一向に出る気配はない。


 そうか! 女性は男性より髪が長い分、シャワーが長いんだ!

 クソ……このままだと漏れてしまう。

 もう膀胱も臨界点を突破しようとしている。ここで漏らせば社会的に死ぬ……!!


 振り向いて社会的に死ぬか……漏らして社会的に死ぬか……最悪の二択を迫られている。


 どうする……。

 

 いや、待てよ……。

 見ずにトイレに行けばいいんじゃないか? 

 シャワールームを見ず、下を向いた姿勢を低くした状態でさっと素早く行けば問題ない。

 それであとで何か言われても言い訳がつく。


 よし!


 膀胱に縛られている今の俺には躊躇がなかった。


 俺は姿勢を低くし、勢いよくトイレに向かった。


 その時!


「痛っ!」


 何かにぶつかり倒れる。

 一体なんだ。

 柔らかい……それに濡れている?

 あと手にすげぇー弾力のある感触が……まるで時速60キロで走る車から手を出したような……そんな感触……。

 これって……まさか。


 まさか……!!!


 起き上がり、自分の下にいるものを見るとそこには——。


「神原くん……………」


 胸を揉まれ、恥じらう姫咲さんの姿があった。


 この時見た彼女の照れた表情と時速60キロの感触を僕は一生忘れないだろう……。


 

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