20話 オタク、街コンに参加する
京也の提案により街コンに参加することになった。
合コンが陽キャにとっての地区大会というなら街コンは県大会みたいなもの。何も知らない俺はそんな印象を持っていたが、色々と調べてみたらどうやら違ったものもあるらしい。
本格的に結婚相手を見つける、まじめで健全なものもあった。いや、むしろそっちの方が多い。
その中で俺は婚活パーティみたいなものではなく参加者全員と一対一で会話する形式の誰にでもチャンスがありそうな街コンに参加した。
「さあ、こちらへどうぞ」
会場に着き、受付のお姉さんに仕切りで区切られた小さな部屋に案内される。
そこには机と二つの椅子があった。
まるで塾の個別授業の部屋のようだ。
「まずはここにプロフィールを書いてください」
そう言いタブレットを手渡される。
ペーパーレスとハイテク化を感じながら俺はプロフィールを書いた。
趣味か……てきとうにアニメと漫画でいいや。変にカッコつけるとボロが出るしな。
好きな女性のタイプ……ほのかちゃんと書きたい所だがそんなこと書いたら全てが終わることぐらい理解している。
ということで清楚系ビッチと……いや、これもアウトだった。
それならもう優しい人でいいや。
結婚願望の有無……無。
子供が欲しいかか……むしろ子供に戻りたい。
とプロフィールを書き進め、そして街コンが始まった。
参加者の女性と10分ほど話していくことになる。
まるで昔テレビでやっていた"ナ○ナ○"のお見合い回転寿司みたいな感じだな。
「神原です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
はじめの女性は27歳のOL。
難易度Cぐらいだろう! よーし! 今の俺なら余裕でいけるぜ!
「神原さん、アニメが好きなんですね。どんなアニメ見てるんですか?」
「まあ主に"きらら系"ですね。最近は"だるキャン"や"まちハズレまぞく"とかにはまってますね」
「へ、へー。そうなんですね……」
「あなたはどんなものが好きですか?」
「あ、私最近異世界系のやつとか見てます」
「異世界系? それは転生ものですか? 転移ものですか?」
「転生? 転移?」
「転生は死んだら異世界に飛ばされていて、転移は死なずに異世界に来たものです。まあ最近は転生が流行っていますが私は転移系が好きですね。転生系はコメディとして見れば面白いのですが、どうも派生が多くて最近では何に転生するかでもはや大喜利状態ですからね」
「へ、へー……」
などという会話をして自己紹介もせず会話が終わった。
次も……。
「神原さんって休日は何してます?」
「主にネットサーフィンかエロゲですね」
「え、エロゲ!?」
「あ、エロゲだからといってその100%エロ目的でやっているわけではないですよ。エロゲは確かにエロいゲームという意味ですが実際はストーリーが深いものが多いんです。なんなら他のノベルゲーよりもストーリーが凝ってるものもあります。まあエロの描写もあるにはありますが、とにかくエロゲはストーリーがいいんですよ。最近流行りのアニメもエロゲ原作ってのも多いですしね。あ、ちなみにエロに全振りしていて、"そういう目的"で作られているゲームはエロゲではなく抜きゲーと呼ばれている。意味は———」
「あ、はは……」
引きつった笑顔を向けられる。
そんな会話を何周かし、とうとうマッチングタイプへ。
これはこのお見合い回転寿司で気になった異性を一人もしくは複数選び、"ハート"を送る。それが両者一致していたらその場で連絡先など交換できるというもの。
俺はほぼ全員の女性にハートを送った。
今の俺なら誰かしらマッチするだろう。
そうドヤ顔で構えていたが……。
「すいません、今回、神原さんは誰ともマッチングしない結果となりました」
受付のお姉さんに宣告された。
う、嘘だぁぁぁ!!
心の中で叫んだ。
どうしてだ……この最高のモテ期状態の俺が誰ともマッチングしないだなんて……狂ってる……狂ってやがる!!
最初は受け入れられなかったが、しかし、この結果により俺は夢から覚めたような気分になる。
昂っていた感情が急速に下がっていく。まるで賢者モードに近い感覚……そこで俺はようやく現実を直視する。
こんな俺がモテるわけなんてなかったんだ……。
「はぁ……」
街コン会場に出た途端、己の過剰で気持ち悪かった自信と行動に対しての大きな溜息が出た……。
京也に唆されてここまで来たが、まじで何してんだろう。どんな女性からもモテるなんて思っていた自分が死ぬほど……超恥ずい……。
やべぇ……。
「「死にたい」」
「「え?」」
自分の声が誰かと重なった。
思わず声がしたすぐ隣を見るとそこには一人の女性が立っていた。
後ろで髪を縛っているポニーテールのおどおどした雰囲気の女性……。でもこの女性どこかで見たような気がする……どこだっけ?
そう顔をジッと見ると、女性も俺の顔を目を細めて見つめる。
「「うーん」」
まるで鏡コントのようだった。
「「あ!!」」
何度か見合って、そしてとうとうお互い思い出す。
「「お隣さん」」
そう一緒に声を出した。
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