18話 決意の夜に


 カードショップが出来たから……なんて言ったらこいつ多分俺の首を絞めるだろうな。

 サイコパス気質あるし。


「ねぇ……答えてよ……私ずっと校門の前に待っていたんだよ」


 さらに罪が重くなっていく。

 やべぇー罪悪感と香乃のおっぱいに押しつぶされそうだ……おっぱい?


 ふと香乃の胸の隙間を見る。


 西園寺さんよりデカイな……。こいつ、意外とエロい体だったんだな……いや、成長したのか! この数年で……!!


 って、おっぱいという名の煩悩に取り憑かれている場合ではない……。

 なんて答えよう……下手な嘘は良くないしかと言って正直に答えるとデッドエンドだしな……うーん。


 香乃に抱きつかれたまま、俺は言葉を探した。

 そして……。


「歯医者……」


「え?」


「虫歯が出来たから、歯医者に行ってんだ。いやー言わなくて悪かった。結構長引いちゃってさ。本当にすまない」


 前言撤回。

 下手な嘘をついた。

 やべぇー考えすぎてありきたりなことを言ってしまった。これは流石にまずいか……。


 恐る恐る香乃の顔を覗くと。


「そっか!!」


 悩みが晴れたかのようなスッキリとした笑顔を見せる。


「なんだ、虫歯だったんだね! 私てっきり嫌われたのかと思ったよ!」


「そんなわけないだろ、あはは……」


 こいつが天然で助かった。

 でも胸が痛むな。


「それじゃあ……またあの時みたいに話せるよね!」


「あ、ああ!」


「よかった…….」


 そう呟き、香乃は起き上がる。


「こんな夜遅くに押しかけてごめんね!」


「お、おう」


 本当にそのことを聞くためだけに来たのか……やっぱりこいつはようわからん。


「それじゃあ帰るね!」


「待てぇーい!」


 窓から出て行こうとした香乃を止めた。


 結局この時間、女性を一人で帰らせるわけにはいかなかったので俺は香乃を一晩だけ泊めることにした。

 香乃は俺のベッドで。

 俺は"だるキャン"の影響で買ったシュラフで。

 香乃はすぐぐっすりだったが、俺は罪の意識で寝れなかった……。


「はぁ……」


 イモムシになりながらため息をする。


 ここは責任とって香乃と正面で向き合うべきなのだろうか……香乃と結婚………。


 いやいやいやいやいやいや。

 想像できない。てか童貞の俺にはこの状況は荷が重いよ。

 辛いな……。


 辛い時、辛いと言えたらいいのにな……。


 「あーあ……」


 寝返りをうち香乃の寝顔を見る。

 やっぱ顔はいいんだよな。

 高校でも職場でも良い出会いはきっとあったはずなのに、どうしてこんな童貞のキモオタが良いのだろう……。感性バグってんだろ。

 西園寺さんも西園寺さんだ!

 あの人も引き手あまたの男性からアプローチを受けていたのに、なんで俺なんだ!?

 本当の自分を見てもらえそうとかわけわからんこと言っていたが……そんなこと他の誰かの方が絶対いいはずなのに!


 今までモテなかった俺がこんな急にモテ期だなんて……。逆にしんどいし、俺別に彼女なんてほしくないんだ!


 ただ、何事もなく平穏に自分の好きなことだけをしていたい……!


 ただそれだけなんだ……。


 なのにモテ期め……こんな俺の気持ちを無視してハイスピードできやがって!


 いいだろう……お前がその気なら、俺は……!


 "このモテ期をくぐり抜き、そして理想の恋人というか運命の人というかほのかちゃんみたいな人と結ばれてみせる!"


 それを決意し、俺は"だらキャン"を見ながら寝た。

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