8話 オタクに恋は無理らしい

「好き……? この俺のことを?」


 深夜3時。

 高級マンションのリビングで初めて面と向かって"好き"と言われた。

 あまりにも唐突であまりにも実感がなくて、俺はボーと彼女を見る。


「返事……聞かせて欲しいな」


 数秒の沈黙のあと彼女が答えを求める。

 だが俺は思考の整理が追い付いていなかった。


「待て待て待て。どうして? 出会ってから今までで君が俺に惚れる要素あった? ギャルゲーでもこんなフラグも何もない急な展開はねぇーぞ」


「好きになるのに理由は必要?」


「今はすげぇー必要」


「わかったわ」


 そう言い彼女は深呼吸をし、語り始める。


「私、生まれてからずっと結構モテてたんだよね」


 あれ? 自慢話?


「小学校、中学校、高校、大学、そして今もよく男性に言い寄られていた。だけどそれは私の見た目が良いからとかモデルをやっているからだと思う……」


 これ、やっぱり自慢話だ。好きになった理由聞いたのに自分語り始めたぞ、こいつ。


「だからどんなカッコいい男性に告白されても何だか冷めちゃって。正直、男性はみんな見た目でしか女性を判断してないんじゃないかなと変な偏見も持ってた。だから合コンとかも友達の付き添いで来てただけだったんだよね。私自身、彼氏が欲しいとか全然思っていなかった」


 まあ、男は大抵、女性を見た目で判断するからな。それは否定しない。


「でも、そんな私の気持ちとは裏腹にそういう場に行くと必ず、みんな私に話しかけてくる。紳士的に接する人や下心剥き出しで話しかけてくる人、そのどれもモデルとしての私しか見えてない……」


 寂しそうな表情を浮かべる西園寺さん。

 だけど。

 

「だけど、君は違った。君が初めてだったよ。私に興味を抱かず、さらに私がいる合コンを途中で抜け出す男性は」


 そういうことか。

 なんとなく話が見えてきた気がした。


「そんな君なら本当の私を見てくれる。見た目ではなく、私自身を見てくれるんじゃないかって。だからちょっと自分でも引くくらい強気な行動しちゃった。お酒も入っていたからかな。君を家に招いて、脱衣所にあえて、パンツを置いて、そして誘惑してみた……。でも君はそれをどれもあしらった。その時思ったんだ。この人は見た目で人を判断していないってね」


 ただ、拗らせている童貞なだけです。

 

「それが好きになった理由……あなたとならモデルとか関係なしに素の自分を見てくれると思ったの! 試すようなことをしてごめんなさい」


 自分の興味を示さなかったから、俺に興味を持ったか……。

 

「買い被り過ぎだ。ただチキンなだけだ」


「それでもあなたは私を見た目で判断しなかった」


 それも違う。

 俺は西園寺さんのこと思いっきり見た目で判断していた。

 好かない意識高そうな女だと。


「ねぇ、お試しでもいい。今度はあなたが私も試してもいいから……私と」


 袖を掴まれながらまた告白される。


 どんな理由であろうとこんな美人と付き合える最大なチャンスに変わりない。

 多分、これ人生最大のチャンスなんだろうな。 

 これを逃せば、もう二度と女性と付き合える機会はない……"魔法使い"が確定する。

 誰だって快く承諾するだろう。

 でも……。


「俺は———」


 

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