第伍話 知らない天井


「ん、ん………」


 目が覚める。


「知らない天井だ……」


 というか知らない部屋。

 ここはどこだ? 

 辺りを見ると見慣れない景色が広がる。

 きっちり整頓されている綺麗な部屋。洒落たダイニングに夜景が見える大きな窓。それになんか良い匂いがする。そんな部屋のソファーでなんで寝ているんだ?

 てか俺はさっきまで何してたんだっけ?


 確か、合コンとかいう魔界に無理矢理連れてこられて、そんで、帰ろうとしたら、西園寺さんに会って、二人で酒を飲んでそんで……。


「あ……」


 全てを思い出した途端、西園寺さんが扉を開けて入ってくる。


「あ、目が覚めた?」


 ピンク色のパーカーを着ていて少し髪が濡れている。風呂上がりか? 

 というか西園寺さんがいるということはここはもしかして西園寺さんの部屋?


「具合はどう?」


「うん、まあなんとか。てかごめん、何があったか思い出せないんだけど、俺吐いた後どうなったの?」


 尋ねると西園寺さんは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し俺に渡し、


「君に襲われた」


 とだけ言う。

 だけど。


「嘘はよくない」


 俺はそれが嘘だと0コンマ2秒で分かった。

 なぜなら酒に酔ったとしてもそんな大層なことをするはずがないと本能的に理解していたからだ。

 すぐに見抜かれた西園寺さんは「ふふ」と小さな笑みで流した。


「あの後、吐いて気分を悪そうにした君を近くの私の家まで介抱したってわけ」


 それはとても申し訳ないことをした。

 ゲロ臭い成人男性を抱えて家に連れ込むなんて、ゴキブリを数十匹連れてくると同じ意味を持つ。

 まじで悪いことをした。


「かたじけない。てかそのまま置いて帰ってもよかったのに」


「そのままにして死んじゃったら目覚めが悪いよ」


 そう言い、また西園寺さんが俺の隣に座る。

 

 俺は一つ誤解していたかも知れない。

 正直、彼女の初めの印象はいけ好かない意識高そうな女だった。

 モデルという肩書きだけでそう判断していた。それにあの自己紹介も特に自分を可愛く見せるための演技だと感じていた。

 しかし、実際はただ周りに合わせていただけだったんだな。

 それにこんな俺をここまで介抱するなんて、近年稀に見る本当に良い人なのかも知れない。


「まじでありがとう。助かった」


 そう言い立ち上がり、近くに掛けてあった上着を手にする。


「何してるの?」


「何って帰るんだけど」


 帰り支度をする俺を見てポカンとする西園寺さん。


「帰るったってもう深夜の1時だし、終電とっくにないよ」


「まじか!」


 部屋にあった時計を見たら確かにもうそんな時間だった。

 どうするか。ここから俺の家まで結構あるしな。

 タクシーを呼ぼうにも、今そんなにお金持ち合わせていないし……。


「まあ、近くのカラオケ屋か漫喫で泊まる。最悪野宿でもいいしね」


 そう言うと西園寺さんは腕を押さえながらモジモジとし始める。

 トイレでも行きたいのか?


「別に……私の部屋……ても……」


「え? なんやて?」


 小声で何言っているかわからなかったので聞き返すと今度はハッキリ聞こえた。


「私の部屋、君なら泊まってもいいよ……」


 照れているのか酔いがまだ覚めていないのかよくわからなかったがまだ顔の赤い西園寺さん。


 この台詞を聞いて俺は———。


「いや、ついさっき会った歳も変わらない男と一晩同じ空間にいるのはいかがなものかと。はっ! もしかして西園寺さんって……」


 衝撃な事実が頭に過ぎる。


「痴女?」


 伺うと西園寺さんは顔をさらに赤くしてソファーに置いてあったクッションを俺に投げつける。


「違ーーう!!!!」


 そんなこんなで俺は帰ろうとしたが、西園寺さんが妙にそれを止めるので、仕方なく一晩やっかいになることになった。


 

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