3話 カッコ良い名前の焼酎は大抵美酒

「いやいや遅くなってごめん、もう料理とか頼んでいる?」


「てきとうに頼んでまーす! 京也君達、何飲む?」


 タブレットの近くに座る女性が言う。どうやらここのお店はタブレットで料理を注文するらしい。

 

「俺は生で。由は?」


「俺は……」


 紙のメニューで飲み物を見る。

 普通に生ビールとか飲みたいけど、オタクらしさをアピールするためにもここは……。


「この期間限定の焼酎"覇龍神"でも頂こうか!」


「え……う、うんわかった」


 微妙な顔しながら頼む女性。

 あれ、なんかこれ胸に来るものがあるな。

 この役回りつれぇーぞ。


「お前名前だけで頼んだだろ。全く、ハハハハ!」


 京也の言葉につられて皆苦笑いをする。

 やはりこうして笑い者に自らなるのは辛いな……。


 その後も何とかオタクっぽいことを言おうとするが……。


「神原くん、趣味読書って言ってたけど何読むの?」


 一人の女性が話しかけてくる。


「主に漫画かな」


「あー私もよく少女漫画とか見るんだ! 神原くん何系の漫画みてるの? やっぱり少年漫画?」


「え、オールジャンル見るけどでもやっぱりきらら系とかよくみるかな」


「きらら?」


「ああ! 女の子がとにかく可愛くて見てるだけで癒しになる!」


「へ、へーそうなんだ……」


「あ、あと俺も少女漫画ではないけどレディコミとか見たりする。あれ地味にエロくて度肝抜かれることあるんだよね。でもエロというよりもストーリー性とかが重視されてて面白いやつは面白い。俺のオススメは———」


「あ、京也くーん」


 京也の方へ行く。



 

「ねぇーーさっきの清楚系ビッチってなーに?」


 別の女性が話しかけてくる。

 少し酔いが回っているのか頬が赤い。


「清楚系ビッチってのは一見清楚に見えるけど実は淫乱な女性のことだな」


「えーーそんなの腹黒い女じゃん」


「まあそうとも言えるが、淫乱さを感じさせない清楚な女の子が実はめっちゃエロかったら萌える! 例えば風紀員とかやってる真面目な女の子が実はめちゃくちゃ男性を意識していたり、エロいこと妄想していたりするとやばいね」


「へ、へーー…ちょっとトイレに…」


 またしても去っていく。

 なんか素の言葉で話している分余計傷つくな。

 てか京也の奴はどうした? 俺をフォローする作戦じゃないのかよ。

 

「俺も猫カフェとか興味あるんだよね。今度一緒に行かない?」


「ハハ……予定が合えば」


 俺を置いて西園寺さんと話している。

 あの野郎俺を切り捨てやがったな……。


 お酒もまわり、みんな会話を弾ませていくが、案の定俺だけ孤立してしまった。

 はぁ……やっぱりこういう場は苦手だな。  

 京也を仕立てる為ここまで来たがもうその手助けもいらないみたいだし黙って帰ろうかな。

 一人黙々と焼き鳥を食べながら覇龍神を喉に食らう。


「よし」


 小声で呟く。

 お腹いっぱいで酔いも結構回ってきたし、トイレ行くフリして帰るか。

 もうここにいる意味も無さそうだし。

 俺は現金をコップの下に置き、誰にも気付かれないよう店を後にした。



「はぁーーかったる」


 コンビニで買ったミネラルウォーターを片手に近くの公園のベンチに座る。

 ギフトカード10000円のために来たが、行って後悔したな。


"お前もワンチャン彼女できるかも知れないぞ"


 京也が言っていたことを思い出す。

 

「ワンチャンもクソもなかったな。はなから期待はしてないけど」


 夜風を浴びながらふと似合わないことを考える。

 俺はそもそも彼女欲しいのか。

 確かにエロゲーとかギャルゲーやった後は自分もそう言った恋愛をしたいとは思う。しかしそれはあくまでもゲームの話。

 リアルとフィクションをごっちゃにさせるほど盲目なオタクではない。

 だけどフィクションの恋愛しか知らないからこそ理想というのは高くなってしまう。身の程を知らずな相手を求める。いや、ただ現実から逃げているだけだな。

 誰からも愛されない自分をただ認めたくないだけだ……。


「あーあ空から飛行石を持った女の子、降ってこねぇーかな」


 思わず空に向かって叫ぶ。


「なーんてな」


「それってラピュタのこと?」


「え?」


 隣を見るとそこには先程まで同じ居酒屋にいた西園寺さんの姿があった。


「西園寺さん……どうしてここに……?」


 俺を呼び戻しに来たのか? それにしては上着やカバンを持っている。まるでもう帰るような格好だ。どうして……。


 疑問に思っている俺をよそに西園寺さんは急に俺の隣に座り、微笑みながら


「君と話がしたくて追いかけてきちゃった」


 と俺の顔覗く。


「へ?」


 首を傾げる。

 俺と話がしたい? 一体どうして? SSRの美女がこんなキモ童貞オタクの俺と話したいと思うのだ? 

 疑問をぶつけようとした瞬間———。


「私、君に興味持っちゃった」


 顔を赤くした彼女がそう告げた———。


 

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