2話 自己紹介で趣味は読書とか言う奴だいたい漫画しか読んでない

「えーと。ではみんな揃ったことだし、まず無難に自己紹介から始めますか!」


 駅前の焼き鳥が有名なチェーン店居酒屋で合コンが始まった。

 男女5対5と思ったより人数が多い10人の合コン。だがそんな中で一際目立つ存在がいた。

 外国人みたいなクリーム色な長い髪型。

 それに女優のようなスタイルとアイドルのような可愛い顔立ちをした女性……これが京也の狙っている人か。

 文句なしの美人。排出率0.02%のSSRだな。

 他の女性も美人だが、このモデルの人は格が違う。

 それに男性陣もなかなかのイケメン揃い。

 京也も顔"だけ"はいいから見劣りはしないが、この戦いなかなかの難易度だぞ。

 どうする……。

 心配する中、京也が自己紹介を始める。


「まず、今回幹事を務めている京也ッス! 25歳、こう見えて広告代理店で働いていまーす。趣味はカラオケとショッピングかなーー。週末はアクセとか服見るのが楽しみになってきてます! あと最近はレゲエミュージックにハマってるッス。 タイプの女性は一緒にいて楽しい人です! よろしくです!」


 拍手が起こる。

 受け攻め、いくつかの自己紹介を予想していたが……これは悪手だろ……京也。

 まず自己紹介で陽キャらしさをアピールするのはいいとしてショッピングとかありきたりすぎる。それにレゲエミュージックって……なんかそれをピックアップして言ってるのがむしろ痛く思える。レゲエミュージックに罪はないけど、ここは無難に洋楽の方がまだ好印象だったな。あと女性のタイプが一緒にいて楽しい人って。それ私は顔ではなく中身で見てますアピールをしたつもりだが、お前、自己紹介の時ずっと狙っているモデルの子見てたぞ。すげぇおっぱい見てたぞ。見た目で選んでいるのバレバレだったぞ。


 ……と文句を言いたくなる出来栄えだが、こう言う場は初めてだし案外これが正しいのかもな。

 正直わかんねぇーや。


 それから次々と男女自己紹介を始める。

 俺が思ったようにまわりも京也のようなことばかり言う。

 当たり障りもないが、一部分だけ個性を出す自己紹介……皆よくやるよ。

 そして、とうとうモデルの人の番。


西園寺さいおんじエレナです。24歳です。えと自分で言うのも恥ずかしいですがアパレル雑誌のモデルをやりながら、パン屋で働いています。趣味は猫カフェとか動物園行くことかな。好きなタイプは同じく動物好きな人ですかね。よろしくお願いします」


 少し照れながら言う西園寺さんに男性陣は盛大な拍手をした。

 これ他の女性に失礼じゃね? と思ったので俺はさっきよりも小さな拍手をする。


 さて誰しもが気になる大本命の自己紹介。その後は消化試合。もうどうでもよくなってしまうので誰しもが西園寺さんの後に自己紹介したくないだろう。

 ちなみにあと一人自己紹介が残っていた。

 それは……。


「神原 由です」


 俺だ。

 さて、まあ誰も聞いてないだろうが、京也に言われたことは守らないとな。


"いいか由。お前はあくまであまり目立たず、そして空気を壊さない感じで当たり障りのないことを自己紹介で言え。人気を取りに行くな! かといってオタクっぽくも行くな! あくまで俺を引き立てる為、人数合わせで呼ばれた地味な男としていけ! お前ならやれる! 期待してるぞ!"


 割と面倒くさい注文だがやってみせるさ。


「25歳。書店員をしています。趣味は読書、休日は本を読んで潰しています。好きな女性のタイプは"清楚系ビッチ"です」


 どうだこの無難な自己紹介と言わんばかりの瞳で京也を見ると京也は引いたような表情で俺を見ていた。

 京也だけでなくそこにいる全ての合コン参加者、さらに隣のテーブルで合コンしている参加者まで"嘘だろ……"的な目で俺を見る。

 あれ? まずいこと言ったかな? 書店員で読書はあからさま過ぎたかな? 


 拍手もなく、俺の自己紹介がまるでなかったかのようにそこから談話が始まった。


 

「ちょい、ちょい、ちょい! あれはねぇーぞ由!」


「え? 何が」


 自己紹介が終わり数分後、京也にトイレに連れてこられた。


「何がじゃねぇーよ。無難な自己紹介をしろと言っただろ!」


「言ったじゃん」


「清楚系ビッチがどこが無難なんだよ!」


「え……清楚系ビッチって一般用語じゃないのか?」


「ちげぇーよ!」


 きつく言われる。

 やってしまった。また"オタムーブ"をしてしまった。

 

 ※オタムーブとはオタクのような言動をすることを言う。

 

「クッソ! 最近清楚系ビッチという単語が可愛いとか優しいみたいな形容詞のように使われているエロゲーやっていたせいで完全に感覚が麻痺ってた!」


「なんだよそのゲーム……。クソ、お前のせいで紹介した俺まで白い目で見られたじゃないか」


「ドントマインド」


「ったく。これからしっかりサポートしてくれよ」


「サポートったってどうしたらいい?」


「もう仕方ない。プランBだ。お前はなんかオタクっぽいことをしとけ。それで俺が逆にお前はフォローする」


「俺をフォローするだと? どういうことだ?」


「この陽キャの俺がオタクのお前と仲良くしてるとギャップでいい感じの男に見えるだろ? 誰にでも優しい男にな」


「そのセリフと考えが誰よりも貪欲に思えるぞ」


 しかし、あながち悪くない作戦だな。

 分数もロクに理解してない頭の割に悪知恵は働く。

 まあ、ギフトカードも貰ったしな。ここはその分の仕事はしないと俺の立場もない。


「わかったよ。しっかり汚名挽回してやる」


「名誉を挽回してくれ」


 京也の適切なツッコミの後、俺達は席に戻った。

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