第3話 春でも凍える

「外傷がないということで、低体温症による凍死も考えたのですが――」

 解剖結果を聞きに来たところ、慎重そうに話を切り出された。

「もう春ですよ!?」

 安東が驚く。

「大して気温が低くなくても、二次的に起こる可能性があるんです。泥酔して屋外で寝ていた、とか。ですが、氷点下でもない状況で全く腐敗していない点、腎疾患があったわけでもないのに死後硬直も見られない点を考えると、凍死の可能性も限りなく低いですね。外傷もなく、持病も、これといった既往症もない。臓器等にも……ご遺体には、死因となりそうな異常がなかったんです。有り得ない話ですが、ただただ全ての機能が停止した、というように見えました。――少なくとも自然死、事故死でないことは確かでしょうね」

「じゃあ、薬物とか――」

「いえ、検査では薬物反応も、毒物反応も出ませんでした」

 手掛かりがないことを嘆く安東が絞り出した声は、丁寧な口調に阻まれた。

「ただただ全ての機能が停止……」

 呟くと、担当医――伊崎いさきがこちらに視線を移した。

「ええ。……薬毒物についてはもう少し調べてみるつもりです。こちらも腐敗等がない点はやはりおかしいですが、少し気になるところがあるので」

 伊崎の曖昧な物言いに、ずっと頭の片隅にちらついていた、けれどその度に有り得ないことだと否定していた、気分の悪い疑問を口に出してみる。

「……例えば、生きていた状態そのままを保存することは可能ですか? ――――ホルマリン漬けのように」

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