第2話 変死体漂着事件
所持品が何もなかったにも関わらず、女性の身元はすぐに判明した。
身元がすぐに判明した理由、それは捜索願が出されていたためである。
職場では仕事も人間関係も問題なく、むしろ真面目な勤務態度とよく笑う穏やかな人柄が評判であった。プライベートでも、円満な家庭で実家暮らし、大勢というわけではないが仲の良い友人たちに囲まれ、充実した毎日を送っていたようだ。
家出をするような要素は持ち合わせていない人物で、失踪当日もいつも通り出勤し、退勤後一向に帰宅しないということだった。そのため、何らかの事故や事件に巻き込まれたとして捜査されていたが、発見されないまま一ヶ月が経っていた。
「死因どころか、死亡推定時刻もわからないみたいです。直腸温からすると一日は経っているはずなのに、ほかの死体現象が見られないんです」
現場で安東から新しい報告を聞くと、やはり少し変わった事件のようだ。
――持病はなく、外傷もない。
突然死の可能性ももちろんあるが、遺体の状態が自然に作り出されたとは思えない。
昨日今日の最高気温は二十度前後、最低気温は十二度。直腸温は十三度であり、通常で考えれば死後二十四時間以上は経過している。しかし、死後硬直はしておらず、かといって腐敗も始まっていないようだ。
何より、漂流する舟の中で花に埋もれて死んでいるなど、尋常ではない。
――何重にも偶然が重なった事故か。
――計画的な自殺か。
――猟奇殺人か。
「傷一つないですからね。薬物か毒か……。それにしても体温だけ下がってほかはそのままなんて、どんなトリックなんでしょう。うーん、わからないですねぇ……」
安東が隣で考え倦ねている。
「美しいものを、美しいままで――――サイコか?」
こうして捜査が始まった東京湾変死体漂着事件は、後に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます