第23話


私と誉さんと青龍が、Délicieux bonbonsの厨房で、こんなに短い時間でよくもまぁこれだけ作ったなと思う焼き菓子や索餅達を、ジップロックに次々と小分けに詰めて保冷バッグに入れていく。


おばあちゃんが、手軽に食べられる様にとおむすびを作って持ってきてくれた。

おむすびを頬張っていると

「富士山どうやら今は小康状態みたいだから、紅白もやるみたいよ。」と教えてくれて、そう言えば大晦日だったって事を思い出した。

「巽ちゃん、また丈瑠と合流するのよね?コレ持って行ってね、」と丈瑠さんとマックさんのおむすびの包みも持たせてくれる

「気を付けるのよ。」

と、心配そうに私の髪を撫でる。

「はい、分かりました。気を付けます。押し詰まったこんなの時期に色々本当にお世話になりました。お池様、貴方の好きなスコーンを焼いてくれる方よ。」と遅くなったけど紹介する。

青龍が目を見開いて

「其方のスコーンは格別だ。礼を申す。」とおばあちゃんの肩を引き寄せてハグした。

「大昔、私の腕の中にいた卵から貴方が産まれたと言うことかしら?とても懐かしい感じがするわ。」とおばあちゃん。

「そうか、そうことですよね。」

「どうりで、とても安心する。」と青龍が言ってから2人は、無言でお互いの存在を確かめ合うと静かに

「お気を付けて。」

「世話になった。いつかまたお会いしよう。」と約束をした。

その時、庭の池が波打って大きな音を立てる。


誉さんのスマホがピロリンと鳴る。画面を見て

「おっ丈瑠からだ。」と呟く。

「丈瑠さんなんて言ってます?」

「えっと、ペンダントを握ってマックを呼べってさ。」

「え〜それだけですか?」

「とりあえず呼んでみたら?」

「はい。やってみます。誉さん色々ありがとうございました。後片付けは帰ってからやりますね。」

「バーカ、何言ってんだよ、正月休みは10日までなんだから、それまで置いとけるわけないだろ。丈瑠が帰って来たらやらせるから。そう言っておいて。」と言いつつもう手を動かしながらニヤリとした。それから

「チビ助、手を怪我すんじゃねぇぞ。おいそこの、お前の為にコイツが巻き込まれてるみたいだからな、くれぐれも無事こっちに帰れるように、お前がコイツを責任持って守れよ。」と誉さんは、誉さんらしい優しさで、青龍に釘を刺す。

「心得た。」とスッキリと凛々しい顔を誉さんに向けて青龍が素直に応じる。

「私の大事な菓子番だ、決して粗末になどしない。」

と私を引き寄せて、右手を頭に回し、左手を背中回して抱き締め頬を私の頭に乗せ、

「ずっと私の元に居れば良い。」と囁く。


「おっ」と誉さんが言ってパチリとスマホで写真を撮った。

その音にハッとして、青龍の腕を振り解き

「何撮ってんですかぁ。」

んもう。誰に見せるつもりなんだ。でも、青龍から離れるタイミングが出来て、助かりました誉さんとも同時に思った。



庭に出て、池の傍に立つ。

「じゃあやってみます。」

ペンダントを首から出して、石を握って、もう片方の手を青龍と繋ぐ。

「マックさーん」と大きな声で言ってみたけど、何も起きない。

前みたいに池にペンダントつけるのかな?

手を伸ばして、水にペンダントを漬けながら

「村正〜」とちょっと照れながら呼んでみたけど、やっぱり何も起きない。

その時頭の中でチカチカって何かが瞬く。

「巽、来て。」マックさんの声だ。

とても苦しそう。早くしなきゃ。

お母さんの声が蘇る。


「きっとこの子が貴方を助ける時が来るはずだから。」


あの時聞いた諱を胸の中で言ってみる。

「龍臣」

すると私の頸のあたりから光が出始めて周りを青く染めていく。

青龍がますます青くなってキラキラと光る。清瀧が私を抱きしめて、2人で池に飛び込んだ。

「早く帰って来いよ。」誉さんの声が遠ざかって行く。


目を開けると、目の前には得体の知れない真っ赤な衣装に包まれた凄い美人が、マックさんに迫っていた。






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龍のお菓子番 小花 鹿Q 4 @shikaku4

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