第22話
乾長船は、元は祖父母に家であった跡に建ったマンションの一角に在る、誰も居ない会社に入り込みライトをかざして地下へと降りた。
備蓄の救援物資の在庫を充電式のラップトップで確認する。ついでに携帯のBluetoothでインターネットに接続して今の災害状況を検索した。
富士山の噴火は一度きりで、その時起こった地震以外に余震も無いと、気象台が発表したらしい。
こんな事は、まず有り得ない。火山性微動なども無くいきなりの噴火もあり得ないと専門家と言われる者達が、こんな事は初めてですと口を揃えて言っている。
コレは、この会社の変わり目になるかもしれない。そう思うと、今の会社で出来る事は何かと頭をフル回転させてパソコンに齧り付くように、今までの事業内容を復習っていった。
何が有る?何が出来る?必要とされているものはなんだ?どうすれば利益を大きく伸ばせる?
自分の考えに集中していたとはいえ、階段を降りて来る音を聞き逃すはずは無い。まだ停電中でエレベーターは動いていない。玄関の扉も非常口も施錠されてるのを確認したにも関わらず、部屋の入り口に女が立っている。赤い体にフィットしているヤケに女を誇示した服を身に纏っているのが、この災害時に似つかわしくなかった。
「誰だ。誰の許可を得て此処にいる。」威圧する様にワザと腹から声を出す。
「あら、あなたが私を呼んだのよ。」と赤い髪を耳にかけながら、琥珀色の目で見つめて来る。
眉を顰めて
「何をバカな。」席を立って追い払おうと女に向かって行くと。
女は見下した顔つきになって、
「いつからお前の家はこんなに落ちぶれたのさ。こんな小さな所で蹲っているとはな、元重が泣くぞ。」女の怒りが肌を伝わってくる。その言葉に長船はハタと足を止める。
元重は、お祖父様の事だ。何者だこの者は。
「お前は元重から、受け継いだ物を持っているな。それを持って今日という日に此処へ来た。それならば仕方あるまい。それが我らの運命だ。私と行こうではないか。」
「何処へ行くというのか。何が目的だ。」
「ふん、わかりきった事よ。
この国を手中に収める為、日の本の直中に行くのだ。」
その時チカチカと電気が瞬いて、停電が解消された。バタンとお祖母様から受け継いだ箱が机に置いたバッグの中から落ちて中身が散乱した。
急に明るくなった部屋の床で、穴の空いた石を拾い上げると光り出す。メラメラと燃え上がる様な赤い光だ。長船は、その光に驚き取り落としそうになる。しかし手の中の石は長船の手の中に埋もれるていくみたいに張り付いている。
その石の手触りを思い出す。お祖母様の胸にいつも下がっていた石。
お祖母様の庭の池。ポンと鳴る睡蓮の花。緑の葉に覆われた池は水面はまるで見えず、その中を何かがすいと泳いでいる。アヒルか鴨だと思っていた。否アレには赤い鱗があったから鯉だったのかもしれない。鯉など飼っていないとお祖父様は言っていたのに。そんな事をこんな時思い出す。
女は鑑を拾い、中を覗き込む。
「道は開かれるぞ、さぁ行こう私に菓子を与えし者よ。」
「菓子?コレか?」とバッグの中の先程買った羊羹とどら焼きを手に取る。
「忘れたか?まぁ良い。行くぞ。」
返事を待たずにず、女は箱から飛び出した本に足を乗せる。
その本もメラメラと赤い光を放ち石と鑑も光の筋が伸びている。
「手を取れ。長船。」
教えもしていない名前を呼ばれたせいなのか、何故か疑いも無く言われるままに手を繋ぐ。
奈落の果てに落ちて行く。そう感じた。
本来なら次にこの日の本の守り神を継ぐのは赤龍だった。
青龍ではまだ若すぎる。もっと長く地に潜っていなければならない筈だった。
しかし、赤龍と契約していた者は上手く代を繋げずにあろう事か、赤龍の鏡池を埋めてしまった。
赤龍がうまく育っていれば、今年の夏至には代替わりが済んでいたはずだったのに。
青龍の菓子番になる三番目の娘は、二十年前に産まれた。コレが赤龍がもう次代の継承者では無い証拠だった。
しかし、赤龍はあがいている。
池を埋めた愚かな者どもを破滅に導き、青龍に刃を立て、剣も菓子番も盾さえも我が物とし龍王になると。
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