第13話
プロテインのお陰か、目を覚ましたマックさんは、どうにか私の肩につかまり最後の鏡池迄歩いた。
十二個目の最後の鏡池は山の本堂裏の岩の上にある。高さはほぼ屋根の高さ辺りだ。リュックに残っていたお菓子を全て池の周りに置いて祈る。お水頂いてから空を見ると、西の空が薄らと赤く染まり始めていた。
間に合った。とホッとしていつもならロープを掛けて真っ直ぐに降りてしまうところを、マックさんに声を掛けながら転げ落ちないようにゆっくりと迂回して本堂まで戻る。
気が付くとアークの姿が無い。
伯父さんやお母さんが本堂で待っていた。
マックさんは、まだ朦朧としていて、此処が何処かもわから無い様子だ。
「お母さん、マックさんを温めなきゃならないんだけど。」と駆け寄って言うが、まずは御水を本堂にお供えする様に言われた。
マックさんの手を引いて本堂に置いてある古くから伝わる銅で出来ている龍頭の水差しに水を移し替える。
三礼して今日の無事に感謝を述べる。
この後の勧請は、当主である伯父さんの役目である。私達は明日の朝鍾乳洞の奥にある御社へ行く時までは、離れで身体を休目で明日に備える。日が落ちると益々寒くなって来た。
本堂の南側に在る離れに入るとお母さんが、
「お風呂沸かしておいたから入りなさい。それが一番早く温まるから。」と言う。
うとうとするマックさんをどうにかお風呂場に連れて行き、入ってもらった。
2人になってからお母さんに
「今日は、変な者に会ったよ。洞窟の守り人とか言っていたけど、知ってる?さっき裏の池の所までは一緒だったんだ」
「知らないなぁ。ここら辺の人じゃ無いって事?」
「ううん、知らない人というより子供よりも小さくて、それなのにおじさんでまるで人間じゃ無いみたいだった。」
「もしかして森の精霊か何かってこと?」
「精霊って感じじゃなかったよ、小さなおじさんって感じ。」
「ドアーフみたいな?」
「ドアーフ?」
「白雪姫の小人よ。」
「それかも。それに近い感じ。全く可愛くは無かったけどね。お菓子をパクパク食べちゃったんだよ大丈夫かな?」
「分からないなぁ。で、明日の分のお菓子はまだあるの?」
「明日の分かぁ忘れていた。ウチに取りに帰ろうかな。取り分けておいた分まだあるよね?」
「そんな事だろうと思って持って来たよ。」はい、と言ってクーラーバックをテーブルの下から出した。
中身チェックすると、コレがすべ終わったらマックさんと食べようと特別に作った、最初に誉さんのプチフールも入っていた。薔薇の蕾って名前だったっけ。内心コレも持って来ちゃったんだと思ったけど、それは言わずに
「ありがとう」と言ってから今日有った事を報告する
「11番目の滝のところでね滝の奥から目玉が出て来たの。大きかったよ。人では無いの間違いないの。それでにドアーフみたいな奴、アークって名前らしいんだけどそいつか、スコーンを出せって言うからスコーンを渡して投げてやると目玉は消えたの。何だったんだろ。山の神様?化け物?何だと思う?今までこんな事無かったよね?」
「そうね、どうだったかな。今、その話を聞いてちょっと思い出したけど、遠い昔に貴方を負ぶって行った時かな、何かに直接お菓子をあげた事があった様な気もするな。あぁ違う違う。私じゃなくて貴方が、そうだ。」とこっちに顔を寄せて
「貴方がマドレーヌを始めて作った時だよ。マドレーヌを出したら滝の奥から、、、あー形は思い出せないけど、何かが出て来てさぁ直接マドレーヌを食べさせたんだ。」とまるで人の記憶を見たみたいに、びっくりまなこになって、口に手を当ててそうだそうだと繰り返して言っている。
「マドレーヌ?」全く思い出せない。
何で忘れたんだろとか言いながら、お母さんは
「そろそろマックちゃんをお風呂から出してご飯にしましょう。」
マックさんは、お風呂から出てピンクに火照ってた顔で食卓に付いたけど、余り元気が無かった。
「大丈夫ですか?どこか痛みますか?」と声を掛けるけど、生返事だ。まだ眠っているのかしら?
お母さんは、お構いなくご飯の支度をして
「食べて食べて明日も早いから。」とペシペシとマックさんの肩を叩いて。お皿にドンドンおかずを取り分ける。
「ごめんね今日は、獣を口にできないから、精進料理みたいなものしか出せなくて。でも食べなきゃ体動かなくなるからさ。」ともう口にスプーンを持って行く勢いだから、マックさんは苦笑いをしながら黙々と食べていた。
食べ終わると、洗い物はお母さんがするから貴方はお風呂場に入ってしまいなさいと言うので、冷えた身体を湯船に沈めた。
お風呂から上がると、お母さんは居なかった。
マックさんに聞くと、「遅くなると怖いから」って帰ったという。マジで。若い男女をこんな山の中の離れに置いて行く親とかいないでしょ?
急にドギマギして動きがぎこちなくなる。その様子を見て
「お母さんは、ちゃんと釘を刺していったよ。約束させられちゃったな。明日までは禊をした身だから穢れは駄目だって。」と明日までってところをちょっと力を込めてそのくせハニカミながら優しく笑った。
だったら2人にしなきゃ良いのにと、もう居ないお母さんにテレパシーを送る。伝わる訳ないけど。
どう答えて良いか分からないけど、沈黙が怖くて
「そうだ。アークも言っていたけど、本を読めって。もしかしたら何か新たなヒントがあるかもしれませんよ。アークの正体とか。」
と言うと、肩を引き寄せられて厚い胸の中にすっぽりと入る。
「情け無いよ。全然タツミンを守ることも出来なくて。迷惑かけないって言ってたのに、助けられてばっかりだった。最後の方は記憶さえ無い。」と額を私の頭のてっぺんに付ける。えっ元気が無かったのはそのせいでなの?もしかしたらいじけてた?そうかそうか、となんだか可愛くなってしまう。
「大丈夫です、山は私の領分だから。それにマックさんが居たから安心して山を歩けたし、あのアークが出て来た時1人だったらと思うと身震いがします。一緒に居てくれて本当に心強かったんですよ。」とニッコリ笑い掛けると。もう一度ぎゅーって抱きしめてから
「本読んでみようか。」とちょっと機嫌を直して言った。
本を出してページを捲ると昨日には無かった色の付いたページが有る。もっとよく見ようと前屈みになると、胸に下げていたペンダントが紙に触れる。すると引っ張られる様に本の中に自分が入っていくのがわかった。嘘でしょ助けてと手を振り回すと、マックさんが手を掴んでくれたのに、2人揃って本の中に入ってしまった。
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