第五章 「祠」
バーを後にし、また階段を昇っていく。
よく見ると階段の横の壁には大きな目玉があり、ぎょろりとこちらを見ていた。
体を反らして全体を見ると、壁にはとても大きな金魚が泳いでいた。
絵ではなく、本当に大きな金魚が壁の中を泳いでいる。
胴には鮮やかな赤色と黒色の斑点模様があり、いかにも品のある風格をしている。
あまりの迫力に、おもわずお辞儀をしてしまった。
そして足元を見ると蔦が伸びていた。
さっき階段を駆け上っていた時はこの蔦が足に絡まりそうになっていたのか。
すべて分かってしまえば別に怖くなんてなかった。
階段を昇りきると、またドアが見えた。
今度は何もためらわずに私はドアを開けた。
屋上は広々としていて、真ん中に小さな祠がポツンとあるだけだった。
風が心地よく、先ほどとは違い、気分も晴れていた。
空には星が見え、屋上からは通りの全体を見渡すことができた。
出店や提灯の明かりのおかげで、どこまでも1本に続いているその通りは
まるで大きな光の川のようで、とても幻想的に見えた。
怖いとさえ感じていた通りも今では美しいとさえ思える。
祠の前に行くと、思ったより祠が小さくて、ちゃんとお願いするためにはかがむ必要があると思った。
祠の前で手を合わせ、そのまま膝をつき、目をつむって現世に戻る事を声に出さずに心の中でお願いをした。
数秒経っただろうか。何も変わった気がしない。
もう少し願う必要があるのかと思い、そのままお願いを続けてみる。
すると、カタンッと何か固いものが地面に置かれるような乾いた音がした。
目を開けてみる。
そこには、赤い縁が特徴的な一つの鏡があった。何も映っていない。
そうか、鏡月さまは「鏡」の神様か。
次の瞬間、視界からすべてが消えた。
そしてすべて悟った。
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