第三章 「鏡月さま」
少女は私の横をすり抜けたと思うと、くるりと体ごと振り返り
私にむかって
「お~にさん、お~にさん、こっちまでおいで~!」
と、まるで子供同士が遊んでいる時のような甲高い声で言った。
その瞬間、体が軽くなり足がスッと前に動いた。
少女はそのまま「はははは!」と高い声で笑いながら通りを走った。
見失わないように必死で後を追った。
少女はスルリと人の間を抜けていき、縦横無尽に魔界をかけ周っているその姿はまるで水を得た魚のようだった。
私は人にぶつかりながらも追いかけ、なんとか少女に追いつこうとした。
すると少女が急に右にある一つの古びた建物の中に入った。
必死で追いかけていて気づかなかったが通りの雰囲気はまた変わり、
今度は居酒屋ではなく廃ビルが並んでいた。
左手には鳥居があり、そこには25丁目と書かれていた。
知らぬ間に鏡月さまがいると言われる25丁目まで来ていた。
ビルからは「はははは!」と少女の声が外からでもわかる程響いている。
意を決して私もビルの中に足を踏みいれた。
中に入るとすぐ螺旋階段があり、上の方で少女が身を乗り出しながら
「お~にさん!ここだよ!」と笑顔で言っている。
私は螺旋階段を勢いよく駆け上った。
途中で何かに足を掴まれそうになったり、横に何かの気配を感じたが
見てはいけないような気がして無我夢中で階段を昇った。
階段を昇りきると目の前に一つのドアがあった。
他に入れそうな部屋はなく、恐る恐るドアノブに手をかけて捻った。
ドアを開けるとそこは薄暗いバーだった。
菊乃家とは違い、居酒屋要素を微塵も感じさせない程オーセンティックで高級感のあるバーだ。
カウンターしかなく8席しかない。
向かいにはマスターらしき男性が虚ろな目をしてグラスを拭いている。
少女は4席目に座り笑顔でこっちを見ている。
「おそいよ~!こっち!」
そう言って隣の席の椅子をポンポンと叩いている。
私はそのまま少女の隣に座った。
「鬼さんやっと来たね!」少女がそう言うと、先ほどから
「お兄さん、お兄さん、」ではなく「鬼さん、鬼さん」と呼ばれていた事に気づいた。
しかし、不思議とさっきまでの怖さは無くなっていた。むしろ落ち着いていた。
「君は私を知ってるのかい?」
そう聞くと、
「うん!知ってるよ!」
と少女は答えた。
何故だ?と不思議に思ったが、そのまま会話を続けた。
「私は鬼なのかい?」
「そうだよ!鬼さん!鬼さんはね、ずっと私を探してた!」
また理解ができず会話が繋がらない。私は質問を変えてみた。
「お嬢ちゃんの名前は?どこから来たんだい?」
そう聞くと、
「鏡月さまってみんな呼ぶよ!ずっとここにいたよ?」
と答えた。
私が想像していた鏡月さまとあまりに違い、驚いた。
鏡月さまというのはこの可愛らしい少女の事だったのか。
ずっとここにいたよ。というのはずっと魔界にいたという事だろうか。
しかし他にも聞きたいことがある。
私は1番気になっていた事を聞いてみた。
「私の探し物はなんだい?」
すると少女は少し困ったような顔をし、
「ん~」と言って、聞いた事には答えず違う話をしだした。
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