第10話 最期の時
魚怪は小学校の校門を少し過ぎたところの山の入り口に立っている。こちらへと向かってくる様子はなく,じっと子供が自分の元へ歩いてくるのを待っているようだ。
「おい君!あいつが見えないのか!?このまま進むと危ないぞ!」
前へと歩を進めるその子供に俺の声は届いていないらしく,こちらを見向きもせず魚怪の方向へと進み続けている。
「ショウタが......呼んでいるんだ......。」
「ダメ!あの子,ずっと同じ言葉をつぶやき続けたまま!」
エリも焦っている。魚怪が子供になにかしているのだろうか。このまま子供が魚怪の元へたどり着けばきっと食われてしまうだろう。俺とエリは,子供の肩をつかみ歩みを止めさせる。
「しっかりしろ!このままじゃ食われるぞ!」
俺はそのまま子供の肩をつかんだまま揺さぶる。すると子供の虚ろだった目に光が戻っていった。
「あれ,ここは......学校?」
子供の意識が戻ったようだ。その瞬間,それまでじっとしていた魚怪に動いた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
魚怪が雄たけびをあげながらこちらへと歩みを進め始めた。
「うわあああああああああああああああああああ」
子供が悲鳴をあげた。やはり先ほどまで意識がなかったらしく,魚怪のことは今初めて認識したようだ。
魚怪が向ってくる。このままではこの子供も俺たちも食われてしまう。どうする。一瞬,周りを見た。なにか魚怪を対処できるものはないか。そうして俺は,校門の補修工事場の道具が目に入った。
「エリ!その子供を連れて走れ!」
「わかったわ!けどカイは!」
「魚怪を足止めする!」
俺はエリにそう告げ,魚怪の横を走り抜けて補修工事場にあったシャベルを手にとった。これでどうにかなるかはわからない。でもこのまま黙って食われるわけにもいかない。俺はシャベルを持つ手に力を込める。魚怪は走り去るエリと子供を追うように進んでいる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
俺は魚怪の後頭部へとシャベルを叩きつけた。
『ガキンッ』
しかし魚怪の皮膚は思ったよりも硬く,思いっきり叩きつけたシャベルははじかれてしまった。シャベルの持ち手がへし曲がり,俺の手が痺れる。
「ア゛ア゛ア゛......」
魚怪が二人を追うことをやめ,こちらを向いた。どうやら標的は俺になったようだ。魚怪が大きな口を開き,俺に向かってきた。
「(食われる)」
俺はそう思い,咄嗟にシャベルの剣先を魚怪の口へと突っ込んだ。
『グシャァッ』
シャベルの剣先は魚怪の口から喉へと突き刺さった。どうやら内側は柔らかかったらしい。魚怪がのけぞり,突き刺さっていたシャベルが抜ける。そうすると魚怪は口から血のような液体を吹き出しながら後ろへと倒れた。そのまま魚怪は動かなくなった。
「や......やった......。」
俺は魚怪を殺すことに成功したのだ。エリと食われそうになっていたあの子供を守り,この町を救ったのだ。俺が喜びにふるえていると,魚怪の体に変化が起こる。大きかったその体がじわじわと縮んでいき,やがて小学生の子供の姿へと変わったのだった。
「え......。」
俺はあっけにとられた。殺した魚怪が人間になったのだ。そして,その顔には見覚えがあった。口から血を吹き出して倒れているその子供の顔は,ニュースでみたショウタくんのものだった。
俺が殺してしまった魚怪はショウタくんだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます