第5話 恐怖からの翌朝

 朝,あんなことがあった後のため当然寝付けるわけもなく,疲れもとれていない。俺はエリのことが心配になり,電話をかけてみる。同じのマンションの同じ階のふたつ隣とはいえ,土曜日の朝ともなるとエリの両親もいるため昨晩の話を大きな声でするわけにもいかない。数回のコールの後,エリが電話に出た。


「もしもし?」

「もしもし,大丈夫か?」

「大丈夫なわけないでしょ。一睡もできなかったわ。」


 エリも寝付けなかったらしいがどうやら落ち着きはしたらしい。


「ねぇ,これからどうするの?」

「どうしようか......。」


 人喰いの恐ろしい魚怪が町に放たれたのだ。家の外はこれまでとは違う危険地帯と化している。日常は全く違うものとなった。


「警察に通報したほうがいいのかしら......。」

「多分信じてもらえないぞ。」


 魚怪の存在なんて当然信じてもらえないし,そうすると廃教会にある下半身だけの死体なんて説明できない。最悪の場合俺たちが疑われても困る。おそらくあのローブの奴等が証拠隠滅を行っているだろうけども。


「SNSでエゴサしてみようか。」

「たしかに,あれだけのバケモノだし目撃されたらすぐSNSに情報が出てくるか。」


 今の時代,なんでもSNSに真っ先に情報が上がってくる。その日は2人で魚怪の目撃情報がないかをSNSやニュースをチェックし続けていたのだが,そんな書き込みやニュースは一切なかった。夜,再び情報共有のためエリと電話をした。


「なにか見つかったか?」

「全然。世間は平和そのものみたい。」

「もしかして夜行性なのか......?」


 少なくともまだ被害者は出ていないようだった。太陽が上がっているうちは出てこないと思っていいのだろうか。土曜日だから引きこもれたものの月曜日には学校が始まる。「魚怪が出たから休みます!」とも言えないし,仮病を使ったとして長くはもたない。このままではいられなかった。


「明日,あの廃教会の様子を見に行ってみようと思う。」

「正気なの!?」

「あのローブの奴等のことも気になるし,なにか魚怪の生態についてもわかるものが残っているかもしれない。」


 もしも生態がわかれば今後の危険を回避できるかもしれない。証拠隠滅が行われているとは思うが,念のため見に行ってもいいのではないか。


「わたしも行くわ。カイだけを危険な目に合わせられない。」


 さすがこれまで一緒に探検をしてきた相棒だ。とても頼もしいのだが,昨晩のような危険な事態になったらエリだけでも逃がさなければいけない。俺は密かに決意を固める。


「それじゃぁ,明日の昼にもう一度行ってみよう。」


 俺たちは再び廃教会へと向かうことを決めたのだった。

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