第3話
平日の昼間。
数ヶ月前までは自分も会社に行き、社会のために体を動かし働いていたと思うと今の自分がとてつもなく惨めに見えてくる。
ソファーの上でスマホで読めるweb小説をたらたらと読み進める日々。
こんな生活生まれてから一度もなかった。よくよく考えれば子供の時は親に色々言われつつも何かをして生活し、たまの休日にぐでーと1日を消費することはあった。
だがここまで長い期間、廃人として生活することはなかったのでこれはこれで貴重な体験なのかもしれない。
「そろそろ、働かないとだよな。」
そう不意に口から漏れた。
頭で考えていたわけではない。そういう状況になりつつあるのだ。
同居人は働いているものの、その給料だけではどうしても余分なお金が出ないのだ。
人生この先長い。何が起こるかわからないし、彼女が出て行ってしまう可能性もある。
だからこそ早いうちに自分の職種を決め、この家の家賃ぐらい自分で払えるようになりたいのだ。
「仕事探すか。」
大学も、高校も今後のことはほとんど親に決めてもらっていた。
元々優柔不断な性格で、何か大事な進路選択の際に常に他人に頼ってしまう。学校の先生からは本当にそれでいいのかと聞かれたがそれでいいと思っていた。だって自分のやりたいことなんて見つからないし、生きていられればそれでいいと感じていたから。
「と、いうことなので教えてください」
夕食後。
現在、働いている元カノに話を聞いた。
彼女も元々無職として生活していた時期があった。そこから社会復帰できたのだから何か方法があると思った。
「就活なんて適当。勘だよ、勘。」
「え、雑」
適当。そんな回答が出てくるとはさすがに思わなかった。
もっとなんかあると思ってた。スキル診断とか、資格とか、社会的性テストとか色々自分の個性を探して職場を決めるものだと勝手な偏見が植え付けられてた。
「履歴書見て再就職って書いてある人の評価なんて何段も下がるんだから基本的には好きな職にはつけないよ。」
「そういうもんなのか?」
「そういうもん。」
「適当に探すのが嫌とかいう、意固地な人には起業とか株がおすすめだけど、どうせできないでしょ?」
起業。それこそやりたいことが明確にある人の発想だ。
株。うーん。無理だな。うん。多分破産する。
そういうところも見抜いてる元カノ様強すぎません?
「というか、そんなにお金のこと気にしてたの?」
「そりゃあ、今の状態だとただ働きただ飯とかいう怠惰の極みだし。」
衣食住が他人の力で成り立っていたらそりゃあ罪悪感も湧く。むしろ抱かない人の方がおかしい。
それなりに感謝があるからこその、就職したいっていう感情なんだよな。
「なら、アルバイトから始めれば?」
「バイト?」
「それなら無理せず、ある程度の身分だから気疲れしないし、やめたくなったらすぐにやめられるし。」
勝手に働くとなったら就職という固定概念が備わっていた僕からすれば驚きだった。
確かに冷静に考えれば、辞めた理由も周りとの協調生が問題だった。なら軽作業で周りと最低限の会話しか交わさない工場での仕事や、梱包作業は僕に合っているのかもしれない。
「でも、お金は?」
「私が働いている給料で生活費がギリギリだけどできてる。なら月、そうだね5~6万稼げばもうちょっといい生活ができるよ。」
「まじか!」
「まじまじ。肉も食える。」
「なら、するかバイト。」
「そーだよ。まずは徐々に徐々に。急に無理してやることないよ。無理は自分の体に毒。毒はどんどん自分の体を蝕んでっていつか体が朽ちてしまう。朽ちるぐらいなら無理せずゆっくり進んだほうが君には合ってるんだよ。」
僕より、僕のことを彼女は知っているのかもしれない。
それとも自分だからこそ気づかないのかもしれない。
自分から見えている景色と、彼女から見えている景色。
見ている場所は同じでも見え方は全く違う。
僕の目はまだ腐っている。
頑張って更生しないとな。
「将来的には君が私のことを養ってよ。」
「ん?なんか言った?」
「うん。言ったよ。私働きたくないから、君が再就職して生活が安定したら私のことを養ってって。」
「ああ、この恩は必ず返すよ。」
彼女が居たから今ここで生活して生きてるのかもしれない。彼女が来なかったら、僕の前に現れなかったら僕はここにも居ず、とっくに自殺していた可能性だってある。
せっかく生かしてもらった命だ。
いずれ絶対にこの恩は返す。
「恩とか、もっと気にすることあるでしょ。」
そうぼそっとそっぽで元カノが呟いたのは彼は知らない。
「ってか、なんでここに居座ってる理由聞かないのコイツは」
元カノ、23歳。
高校時代の元カレの家に居座ること1ヶ月弱。
そろそろ自分の思いをこの鈍い男に伝えようか検討中だった。
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